「こうして、街に平和な毎日がやってきました。
街の人たちが集まり、旅人にお礼をしようとしましたが、その時にはもう、街のどこを探しても旅人の姿はありませんでした。」
日々薄れていく記憶の数々の中で、ぼんやりと記憶に残っている物語。
旅人が悪い男たちを倒し、街に平和を取り戻す、何も特別な事はない、どこにでもありふれた物語。
「たびびとさんはどこにいったの?
どうしていなくなっちゃったの?」
「うーん、なんでだと思う?」
「そんなのわかんないよー。
わかんないからきいてるんでしょー?」
「ふふっ、ごめんね」
少女は母親が読み聞かせてくれる、この物語が大好きだった。
まだ言葉も話せない弟のため、と言って母親にねだり、何度も何度も読んでもらい、その度少女は必ず目を輝かせ、最後は決まって母親にこんな質問をしていた。
それからどれだけの時間が過ぎただろうか。
レテーナは弟・レオンと2人で力を合わせながら強く日々を生きていた。
「良いよなぁ、レティちゃん……俺がもう二回り若かったら……」
「馬鹿言うなよ、いくら若くてもお前みたいなギャンブル狂い、しっかり者の彼女に相手されるもんか」
「……そのギャンブルで儲かったからお前にこうして奢ってんだろうが」
「ははっ、すまんすまん」
男達は酒場でテキパキと働くレテーナを見て、鼻の下を伸ばしながら酒とツマミを味わっていた。
店内は大盛況だった。
だが、今日は店主の風邪があまりに酷かったため、レテーナが追い返した事もあり、店内には男手がなく、より忙しさに拍車がかかっている状態だった。
そんな客が溢れる店内を赤毛の男は無愛想な顔のまま歩いていき、奥の方の唯一空いていた席に腰かけた。
「いらっしゃいませ。
ご注文はお決まりですか?」
赤毛の男に、レテーナは水を差し出しながら笑顔で問いかけた。
「……なんでもいい、強い酒とツマミをくれ」
「はい、少々お待ちくださいね」
赤毛の男がいる席からカウンター側へレテーナが移動しようとした時、既に酔っていると思われる男達が5人立て続けに入店してきた。
男達は全員黒一色の服装に身を纏い、いかにも「普通の人々ではない」気配を漂わせていた。
「あら、いらっしゃいませ。
すみません、今、込み合ってて5名様だと席にご案内するまで少々待ち時間をいただく事になっちゃうんですけど……」
男達の風貌を気にする事なく、レテーナは店員として笑顔で振る舞った。
「なに?
今日はアニキの誕生日なんだぞ?
気持ちよく飲ませろよ!」
黒服の1人がそう言ってレテーナを脅しにかかった。
だが、レテーナは1歩も退かずに対応を続けた。
「そうなんですか、おめでとうございます。
でも、他のお客さんもいますから、もう少し待ってくださいね」
レテーナはそう言って小さく頭を下げた。
「このアマァ……
調子に乗るんじゃ……」
黒服が怒って拳を振り上げようとした時、一番年長者らしき黒服がそれを制止した。
「やめろ。
美人の姉ちゃんに拳なんか上げるんじゃねぇ」
「す、すいやせん、アニキ……」
黒服達は一斉に年長者らしき黒服に頭を下げた。
「……それより姉ちゃん。
アンタ、俺達に物怖じしないその態度、イイねぇ……
どうだ、今から俺の家で朝までパーティーやらないか?」
「ありがとうございます。
でも、仕事中ですから。
ごめんなさいね?」
レテーナは笑顔でその場を乗り切ろうとしたが、年長者らしき黒服はレテーナの手を掴み、放そうとしない。
「カタい事言うなよ。
……行こうぜ?」
黒服達はレテーナを取り囲み、無理矢理連れだそうとしていた。
その状況を、店中の客達は心配そうに見つめていた。
「お、おい、このままじゃレテーナちゃんが酷い目にあっちまうぞ……」
「でも相手はあのブラック兄弟だ……俺がもう二回り若かったらレティちゃんを助けてやれたんだが……」
先程まで鼻の下を伸ばしていた男達も黒服たちを見て、ただただ怯えるばかりだった。
「……」
赤毛の男はその状況を静かに見ながら、水を飲んでいた。
しかし、その水もついにはカラになってしまい、赤毛の男はため息と共に立ち上がった。
「さぁ、行こうか?」
黒服の男達を前に、レテーナが連れ去られそうになった瞬間、いきなり年長者らしき黒服の頭上に赤毛の男が現れ、踵落としを相手に見舞った。
男が攻撃を受けた瞬間、レテーナの手を放したため、レテーナは攻撃に巻き込まれず、男だけが床に倒れた。
「あ、アニキィ!?」
「……ったく、お前らのせいでなかなか酒が来ねぇだろうが」
赤毛の男はそのまま流れるように黒服の男達を攻撃していき、次々とノックアウトしていった。
「姉さん、大丈夫!?」
店の前にいたレオンが慌ててレテーナの傍へと駆け寄った。
レオンは息を切らしていた。
酒場でトラブルが起きているという話を耳にして、急いで駆けつけてきたためだ。
「えぇ、大丈夫よ。
この人が……助けてくれたから」
「……」
赤毛の男は、無愛想な顔つきでその場に立ち、頭をかいていた。
「姉さんを助けてくれてありがとうございます!」
「……いや、礼はいい」
「でも、大切な姉さんですから!
本当にありがとうございます!」
深々と頭を下げるレオンを前に、赤毛の男はより強く頭をかいていた。
「礼はいいから……酒とツマミ、早くしてくれ。
ボウズ、お前は騎士団を連れてきてこいつら片付けてもらえ」
そう言って赤毛の男は店の奥の席へと戻っていった。
「カ、カッコイイ……!」
レオンは男を見ながら、目を星のように輝かせていた。
それから少しの時間が経過し、黒服達はプロンテラ騎士団によって引き取られていき、
レテーナは赤毛の男が待つ席に酒のボトルと山盛りのツマミを持っていった。
「お待たせしました。
それと、さっきは本当にありがとうございました。
これはさっきのお礼だから、お金の心配はしないでね」
レテーナはそう言いながら酒のボトルと山盛りのツマミを男に差し出し、レオンは笑顔で酒をボトルからグラスに注いだ。
「……そいつはよかった。
俺も今、金の持ち合わせがなくてな」
赤毛の男はそう言いながら、差し出されたツマミを口にした。
「えっ?
っていう事は……無銭飲食のつもりだったの……?」
赤毛の男は無言で注がれた酒を味わっていた。
「……呆れた。
ヒーローかと思ったらあなたもあの人達と同類じゃない。
また騎士団に来てもらおうかしら?」
レテーナは口ではそう言っているが、顔はとても良い笑顔をしていた。
それは、営業スマイルではなく心からの笑顔だった。
「……今日は奢りじゃなかったのかよ」
そう言いながらもサビクは酒とツマミを味わい続けた。
「えぇ、奢りで良いわ。
でも、代わりに1つだけ教えてくれる?」
「……なんだ?」
「あなたの名前は?」
「……サビク。
サビクでいい」
ぶっきらぼうにそう答えたサビクを前に、レテーナは無意識のうちに昔母が読み聞かせてくれた物語の旅人とサビクを重ねていた。
もしかすると、このままサビクはモロクからいなくなってしまうかもしれない。
そう思ったからか、それともただなんとなくの思い付きだったのかはわからない。
レテーナは、サビクにもう1つ相談を持ちかけた。
「ねぇ、サビク。
お金に困ってるなら、この店で働かない?」
その後。
「ちょっとサビク、また仕事中にお酒なんか飲んで!」
「お前が飲んでいいっていうからここで働いてるんだろうが」
「それは業務時間外にちょっとだけならっていう話!
今まで飲んだ分、店長には給料から引いておくよう言っとくからね!」
モロクの酒場ではすっかりこのようなレテーナとサビクのやり取りは日常茶飯事になってしまっていた。
「それよりサビクさん、僕に剣術教えてください!」
「断る」
「はぁ……どうして私はこんなのを用心棒に推薦しちゃったのかしら……」
「サビクさん、お願いします!」
「だッ、寄るなァ!」
後にサビクが強さを取り戻すまで、しばらくはこのような日々が続いていくのだった。
(後書き)
そんなこんなでレテーナ(&レオン)とサビクの出逢いを掘り下げたお話でした。
元々書いていなかった部分を後から書いたため、もしかするとゲーム内の説明と食い違ってる部分があるかもしれません。
あったら…ごめんなさい。
(一応自分でもあれこれ見直して書きましたが、もうすぐ実装から6年経つクエストですから、あくまで非公式なモノ、と寛容な目で見ていただけたら幸いです)
レテーナの話を書くにあたって何を書くべきか毎日布団の中で悩み、結局実家から戻る電車の中でネタがまとまり、一晩で書きましたw
「レテーナとスピカの女子会inモロク」でもよかったのですが、女心がわからない星七号なのでこっちにしましたw
レテーナに関しては、正直「酒場で働くレオンの姉」「男だらけのクエストの華」というポジションぐらいしか設定がなく、最初は名前ももっとありふれた名前でした。
(詳しくは伏せますが、悩まず3秒で考えたものでした)
でも、気が付いたらレテーナになってて、lala先生にイラスト化していだいて、いつの間にか「S.S.S.のモロク3人組」になってた。
なので、星七号的には書いてて「これで大丈夫かな?」と気を遣うキャラだったりします。
レテーナは星七号より別スタッフのキャラと言った方がたぶん正しい。
(誤解のないように言っておきますが、嫌いとかそういう話ではないです!)
そんな感じなので、自分がレテーナのプロフィールを起こす事に違和感もありますが、この非公式SSを書くにあたって考えた、非公式レテーナのプロフィールです。
非公式ですよ、非公式!
名前:レテーナ・ターナー
肩書き:酒場の華
年齢:20歳
身長:157cm
趣味:植物の世話(最近はミニサボテンに興味あり)
好きな食物:焼き芋
嫌いなもの:虫(蝶など一部を除く)
誕生日:11月26日
誕生花:シャコバサボテン(花言葉:美しい眺め)
年齢に関してはファイさんが19歳でしたっけ?と仰ってたのでどこかで語られている可能性もありますが、酒場勤務なのでトラブルを避ける意味で20歳にしておきましたw
どこかで食い違ってたらたぶん数え年と満年齢の違いという事にしましょうw
身長はレオンより高くするとスピカより大きくなり、それはスピカの個性を奪う事になるので、平均身長-1cmに。
誕生日は夏場にするとレオン→サビクの夏のモロク祭にさらに加速がかかる(狙ったとはいえ)ため、あえて夏ではなく秋~冬にしました。
調度良くシャコバサボテンが誕生花な日がありましたし。
(シャコバサボテンは砂漠に咲きませんけどねw)
この設定により11月にレテーナ誕をやるかは未定。
なるべくやりたいですけど、その時の状況次第です。
何度かお話ししてますが、レテーナとサビクの関係は「どうとでも取れる微妙な関係」であるべきだと考えているので、自分が明確に進展を描く事はないと思います。
(S.S.S.は信頼度システムがあるのにサビクの恋愛相手を固定したくないので)
でも、他の方は自由に書いてくださって構いませんw
むしろ好きにしてくださいと言えるように自分は書かないつもりでいます。
1. レテーナさんきゃわわ(*´▽`*)
レテーナさんは、設定段階では比較的新しく作られたキャラらしいですね。
もし彼女がいなかったら、Side:サビクの華の無さに私が絶望したかもしれませんw
イケメンいるからいいだろうって? 男と女の「華」は別物なんですよ!!(謎の力説)
自キャラ(♀)? ありゃノーカンです(ぇ)
我が家の長女(設定)と同じ年齢ですが、今後も姉さん呼びしていく所存です!
レテーナさんのお姉ちゃんオーラに甘えたい今日この頃。
Re:レテーナさんきゃわわ(*´▽`*)
>幼少期レテーナたんを想像して朝っぱらからニヤニヤしていた奴がここに…
いくらでも想像しちゃってくださいw
たぶんお姉さんぶりたい所もある子だったんじゃないかと思ってます。
>彼女がいなかったら、Side:サビクの華の無さに私が絶望
流石に自分もこれはマズいと思ったワケですw
そういう意味ではやはりレテーナに立ち絵があればもっと印象が違ったんでしょうねー。
>レテーナさんのお姉ちゃんオーラに甘えたい
なんか笑って許してくれそうな雰囲気がありますよね(ただし常識の範囲内であれば)w
この話を書くきっかけをくださって、ありがとうございました!
名無しのレテーナ好きが主人公にならず、そこはすみませんでした。