クリスマスを前にした冬のとある夜。
サビクは酒場「デイブレイク」を訪れていた。
雪のせいか今日は客足がなく、店内の客はサビク1人。
「この雪じゃ客なんか来ねぇだろ。
一緒に飲まねぇか?」
「店を任されてる身だからね、そういうワケにはいかないよ」
たまたまその日、ランドルフは知り合いと会うために遠出しており、
デイブレイクにはアルゴルしかいなかった。
用心棒でありながらも店内で堂々と酒を飲んでいたサビクには耳の痛い話である。
「…まぁ、コーヒーぐらいなら付き合うけどさ」
そう言ってアルゴルは淹れたてのコーヒーをサビクの前と自分の前に、1つずつ置いた。
「へへっ、不良店員め」
サビクは嬉しそうに笑いながら、差し出されたコーヒーをゆっくりと飲み込んだ。
「…兄さん」
静かにアルゴルはサビクを呼んだ。
「なんだ?」
「……」
アルゴルは少し考え、言いかけた言葉を飲み込んだ。
『いつもありがとう』
アルゴルはそう言いたかった。
だが、改めてそんな事を言うのはおかしいかもしれない。
そう思って、アルゴルは言葉を飲み込んだ。
「…なぁ、アルゴル。
…いつも、ありがとな」
優しい声色でサビクはそう言った。
アルゴルは、自分の心が読まれたような気がしつつも、
サビクが同じ事を考えてくれていた事が、ただただ嬉しかった。
「…こちらこそありがとう、兄さん」
過去を後悔しない日はない。
時を巻き戻せたらと何度も思った。
それでも、時は戻らない。
重い十字架を背負って、悔いて、生きていくしかない。
だが、サビクや、スピカ、アルナ、アイリ、ルファクやランドルフ、
そしてあの冒険者もありのままのアルゴルを受け止め、受け入れてくれている。
アルゴルの瞳からは小さな涙がこぼれていた。
「ふぁ~ぁ…」
アルゴルの涙を見ないよう、サビクはあくびをしたフリをした。
「健康的な暮らしをしてるせいか、眠くてしょうがないぜ」
そう言って、サビクは優しい笑顔を見せた。
アルゴルにとってサビクは、いつも太陽のように暖かく照らしてくれる存在だった。
だが、同様にサビクにとって、アルゴルもまた、かけがえのない存在である。
血の繋がりはなくても、お互いがお互いを大切に思う。
2人はこの瞬間に幸せを感じていたのであった。
(後書き)
アルゴル、お誕生日おめでとう!
山場もオチもない話ですが、日課の散歩中に思い付いたネタを形にしました。
アルゴルについては本当、Side:Shadow頑張らなきゃな!と思う毎日です。
あと温泉話!
どうせ年末年始も実家に帰れなそうですし、休暇中に書きたいです。
書けるといいな。
それはそれとしてハッピーバースデー、アルゴル!
幸せであってくれ!