当ブログのSSは個人的に作成した非公式なものです。それを踏まえてご覧いただけると嬉しいです。 忍者ブログ

あくまで非公式です

ラグナロクオンラインのクエスト「Strong Stars Story」関連の非公式SSサイトです。はじめての方は「はじめに」をご覧ください。 ©Gravity Co., Ltd. & LeeMyoungJin(studio DTDS) All rights reserved. ©GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved

夜明け前の空の下で(非公式サビクSS)

声が聞こえる。

「……さん……」
「兄さん……」

懐かしい声だ。
だが、この声を聞いていると、俺は胸が締め付けられるように苦しくなった。

「兄さん、ボクだよ。忘れたの……?」

忘れるハズもない。
俺が、お前を忘れるハズがない。

「酷いなぁ……ボクは死んだのに、兄さんは生きていて、ボクを忘れちゃうなんて」

違う!
俺は、今でもお前の事を……

「ボクじゃなく、兄さんが死ねば良かったのに」
「兄さんもこっちにおいでよ、ボクがいるから寂しくないよ」
「死ぬのが恐いの?」
「ボクを 殺し  たのに……」

俺は……俺は……!

俺は慌てて飛び起きた。
息が荒い。
俺はうなされていたのだろうか……酷く汗をかいていた。

俺はベッドの下にあるボトルを手に取り、一気に飲み干した。
ボトルの中身は酒だ。
悪夢の後味の悪さを消し去るためには、悪夢よりも強い酒が必要だった。
飲み終えたボトルを床に置き、俺はタオルで汗を拭く。

アレから2年……この2年で、俺は何度こんな夢を見ただろうか……
俺はタオルを投げ捨て、ベランダに出た。

外に出ると冷たい夜風が肌に触れた。
俺はどれだけ眠れたのだろうか。
空にはまだ陽が昇る気配はない。
俺はため息を付きながら、ベランダに置いた小さな椅子に腰を下ろした。

俺は、サビク・モルス。
弟達を救えなかった、愚かな男だ。

2年前、弟達が死んだ。
俺は、弟達を助けたいと思いながらも、結局は何も出来なかった。


俺を見捨てた妹が言った。

「兄さんは私たちのヒーローだった」

嘘だ。
間違いだ。
勘違いだ。
俺はヒーローなんかじゃない。
こんなにも弱く、愚かで、誰も助けられないヒーローなんかいない。

「兄さんが死ねば良かったのに」

そう、俺が死ねば良かったんだ。
俺が死んで、アイツらが残るべきだったんだ。

俺はポケットからタバコを取り出し、それをくわえたまま、先端に火を点けた。
タバコの煙が線香のように空に昇っていく。
俺は、それを見ながら少しずつ、過去を思い出していった。


あの頃の俺は、ただ周りよりも年が上だと言うだけで兄として扱われていた。
だが、それも嫌じゃなかった。
本当の家族でなくても、家族のように苦楽を共に出来る。
そんな、弟達と過ごす日々は、俺にとっての全てだった。
アイツらがいたから、どんな辛い事も乗り越えられた。

……あの日までは。

「兄さんは私たちのヒーローだった」

だとすれば……あの日、ヒーローだと思われていた俺も、死んだのかもしれない。
今ここにいるのは、ただの男……いや、それ以下の存在だ。

左頬の傷が痛んだ。
これは、俺が弟達を助けられなかった印だ。
俺の過去は、この傷痕と同じ。
これからも癒える事なく、弟達を助けられなかった事実だけが俺に残り続けるのだろう。

俺は現実が辛くて、耐えられなくて、逃げ出した。
酒に溺れれば、楽になれると思った。
それでもどんな酒にも俺は酔えない。
よりアルコールが高い酒を欲しても、俺はそれに酔うフリしか出来なかった。
タバコを吸えば、気が紛れると思った。
それでも何をやっても、どう逃げても、俺はあの出来事をいつまでも忘れられなかった。

「兄さんもこっちにおいでよ」

……死ねば俺は救われるのか?
死んだお前達は救われたのか?
ここにいる俺にはわからない。

結局、俺は変わる事が恐かったのかもしれない。
変わる事が恐くて、弟達を失った現実に耐えられなかった。
そして、俺はこんなに悩みながらも死ねずにいるのだろう。
……俺自身、妹に見捨てられるほどに変わっちまったのにな。

俺は、今、何のために生きているのだろう。
今の俺にどれほどの価値があるというのだろう……
短くなったタバコを灰皿に押しつけ、火を消した。
今の俺は、このタバコと同じ。
火を失った燃えカスだ。
そして恐らく……もう二度と火が付く事はない。

……しばらくの間、ベランダであれこれ考えるも、結局俺の気持ちは癒されなかった。
……もしかすると、これは癒されてはいけない痛みなのかもしれない。
俺は、この傷痕をずっと負ったまま生きる事が、アイツらのためなのだろうか……
そう思いながら、俺はふと遠くに目をやった。
すると、その先には熱心に素振りを続ける少年の姿があった。

少年の名はレオン。
俺に熱心に剣術を教えて欲しいというこの街の住人だ。
レオンは、俺の死んだ弟にどこか似ていた。
そして、もしかすると俺の子供の頃も、あんな風だったのかもしれない。

だからこそ、レオンのような未来ある若者が俺に感化されるのは嫌だ。
だから、俺はレオンを避けていた。
驚くほどに純粋なレオンは、きっと傍にいたら俺の悪い空気に染まってしまうだろう。
それなのに、それを知らずにアイツはいつも駆け寄ってくる。
あんな未来を夢見た子供が、絶望する姿なんか見たくないのに……

そんな事を考えていると、レオンがこちらに気付いたのか、剣を置いて手を振っている。

「サビクさぁーん! どうしたんですかー!?」

時間も考えずにレオンは元気な声で俺に話しかけた。
俺はベランダを離れ、早歩きでレオンに近付いた後、ゲンコツをレオンの頭上に落とした。

「いたっ!?」
「うるせぇ、今何時だと思ってるんだ!?」
「えっと、4時です……」

レオンは涙ぐみながらそう答えた。

「わかってるならもっと静かにしろ。 近所迷惑だろうが……」

俺が注意するとレオンは見るからにしょんぼりとしはじめた。
少しだけかわいそうな気にもなったが、俺は間違った事は言っていないハズだ。

「……で、なんでこんな時間に素振りなんかしてるんだ?」

俺がそう聞くと、レオンはすっかり泣きやんで顔を上げた。

「いやぁ、こんな時間に目が覚めちゃったんで、特訓しようと思って! これでも結構鍛えてるんですよ! えへへ!」

満面の笑みでレオンはそう言った。

……この笑みも、いつかは壊れてしまうのだろうか。
そう考えると、汚れてしまった俺から、レオンに言える事は何もない気がした。

「ところで、サビクさんはどうしたんです? ベランダでボーっとしてたみたいですけど」
「……変な時間に目が覚めちまったんでな、夜風に当たってたんだよ」
「じゃあ、僕と一緒ですね!」
「一緒にするな」

俺は再びレオンの頭にゲンコツを落とそうと思ったが、泣かれるのも面倒なので諦めた。

「……しっかし4時か……変な時間に目が覚めちまったな……」

俺は頭をポリポリとかいた。
するとすかさずレオンは口を開いてこう言った。

「じゃあ僕に剣術を教えてくださいよ。 ご飯ご馳走しますから!」
「……断る」

こんな会話をしたのはもう何度目だろうか。
俺はレオンに背を向けて、再び自分の部屋に向かって歩き出した。

「ま、待ってくださいよ~、サビクさぁん……」

今日も、そんなこんなのやりとりをしているうちに、いつの間にか陽が昇りだす。
俺が悪夢にうなされていようが、過去に悩んでいようがお構いなしに、陽は昇って明日が来る。
それを俺が拒もうが、結局逃れる事は出来ない。
時間というのはレオンよりも迷惑なヤツだ。

……お前は俺を恨んでいるのか?
恨んでいるだろう。
憎んでいるだろう。

そう思いながらも、俺は、俺のようで俺ではない、「一人の酔っ払い」を演じながら、ここにいる。
……本当に俺ってヤツは、燃えカスのような男だ。
いつか完全に燃え尽きるまで、お前はそこで、俺をあざ笑っていてくれ……アルゴル……



(後書き)
本ブログのSSは全てプライベートで書いた「非公式」な(二次?)創作ではありますが、
実装開始から5年半も経つ今もS.S.S.を好きでいてくださる方々に何か感謝を形で現せないか、という気持ちで公開させていただいているものです。

いきなりこんな重暗い話でごめんなさい(汗)。
震災で多くの方が亡くなり、傷を抱えているかもしれない中で、これは不適切ではないかと悩む気持ちは今もあります。
しかし、この物語の後、サビクがどうなるのかを、このブログをわざわざ見に来てくれている皆さんは知っていると思います。
だからこそ、一番手に選ばせていただきました。

このSSを書いたのは実はもう、何年も前でした。
ある休日に部屋の片付けをしていたら、何故か創作欲が強く掻き立てられちゃって、一気に書いた記憶があります。
その時適当に考えた仮タイトルは「物思うサビク」とか「真夜中と酒とタバコ」とかだったような?

非公式ではありますが、S.S.S.Side:サビクでPCと出逢う前のサビクのイメージを形にしたものです。
正直、自分にとってのサビクはS.S.S.で一番メンタル面でナイーブなキャラです。
S.S.S.全体を見ても女性陣より男性陣の方がメンタル弱い傾向にある気がしますが、それはさておきw

サビクは自分を燃えカスと比喩していますが、コンセプト的にはバイクだったりします。
事故が原因で一度は走れなくなってしまったけど、修理すればまた、どこまでも走れるようになる。
時間が経ってる分、ちょっと古いんだけどそこがカッコイイ、そういう人です。

サビクは元々、男性にも好かれる男性キャラクターを目指す意図があったのですが、予想以上に女性ユーザーさんからの反響があって驚きました。
この場を借りて、本当にありがとうございます。

ちなみに、これとは別に夜が明けた後のサビクのSSも用意してあるので、ご安心ください。

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コメント

1. ドット絵サビクさんかわいいなぁ

 前にROSNSに書いた話が、これと対になりそう…というか、これのアルゴル版みたいな感じかなぁ…と、ふと思いました。

 うちの方はもっと黒々しい感じですがw


 そしてうっかり習慣でF5押してしまいましたw
 すみません、てへ☆

 てか、またトルシュさん出てきちゃった!www

Re:ドット絵サビクさんかわいいなぁ

ドットサビクさんは個人的になかなか気に入っていますw

>これのアルゴル版みたいな感じ
おぉ、それは奇遇ですねー!
…べ、別に真似したワケじゃないんだからねっ!?

このSSは部屋の片付け中に「降りてきた」ので勢いで書いたのですが、なぜ片付け中にこの話を閃いたのかは思い出せませんw
なんでだったかなぁ…

プロフィール

HN:
星七号
職業:
ゲーム作ったり話書いたりする人