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あくまで非公式です

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弱さの「墓標」(サビク非公式SS)

モロクの街外れにひっとりと小さな墓標が存在していた。
そこに書かれた名は……「サビク」。
かつて、駆け抜ける伝説の勇士と呼ばれた者と同じ名前だった。



モロクの酒場に昼間から酒を飲んでいる赤毛の男の姿があった。

「あれ、サビクさんお酒は辞めたんじゃなかったんですか?」

店を訪れた少年レオンが赤毛の男にそう話しかけると、赤毛の男はレオンを睨み付けた。

「……あれ……サビクさんじゃない……?
 す、すみません! 人違いでしたっ!」

レオンが間違えるのも無理はない。
赤毛の男はサビクと非常に良く似ていた。
違いといえば左頬に傷がない、目付きがサビクよりツリ目気味……など、まるで間違い探しのようだった。

「……俺とそのサビク?ってヤツはそんなに似てるのか?」

赤毛の男は酒を飲みながらレオンに話しかけた。

「はい! もうそっくりです!
 世界には似てる人が何人かいるって言いますけど、まるで双子みたいですね!」

レオンが赤毛の男と話していると、女性店員が赤毛の男に茹でサソリを運んできた。
どうやら赤毛の男が注文していたようだ。

「サビクも前はこのお店でよく飲んでたのよ。
 あなたを見ていると、あの頃に戻ったみたい」

「……ふーん……よかったら、酒のサカナにそいつの話を聞かせてくれないか?」



数日後。
モロクから遠く離れた地で赤毛の男が1人歩いていると、前から歩いてきた大柄の男と肩がぶつかった。

「いてぇ!
 テメェ、何しやがるんだ!」

大柄の男は赤毛の男に怒鳴りつけた。

「……貴様、俺が誰か知らんようだな」

赤毛の男はそう言って、腰に携えた剣に右手を置いた。

「……本来、貴様のような小物相手に名乗るまでもないが、俺はサビク。
 輝く闇の剣士 サビク・モルグス……
 俺がこの剣を抜いた時、貴様の命は終わる。
 そうなる前に立ち去れ」

赤毛の男……サビクと名乗る男はそう言って大柄な男を睨み付けた。
正直、大柄な男はサビクという名に覚えはなかったが、立ち振舞いからすると相手はなかなかの強者なのだろうと判断せざるを得なかった。

「……きょ、今日の所は見逃してやる!」

逃げるように去っていった大柄な男を見ながら、サビクと名乗った男は密かに笑みを浮かべていた。

(イケる……イケるぞ、イケてるぞ!
 今までの人生、俺は何をやっても周りに馬鹿にされてきた……
 だが、サビク・モルグスになりすましてからは絶好調だ!)

正しくはサビク・モルスであり、本物は「輝く闇の剣士」などではないのだが、偽サビクはすっかり“想像の中のサビク”になりきっていた。

この偽サビク……本名は「ライオ」というのだが、「俺は神に選ばれた特別な人間」「俺は他の人間とは違う」などと言いながらも
四半世紀ほどの人生を特に何をする事もなく、ただ流されるように生きていた。
将来に夢を持つ事もないが、平凡は嫌い。
いつか自分にだけは、輝かしい未来がやってくる……根拠もなくそう思い込み、本当に何もせずに生きていた。

だからこそ「自分に良く似た自分ではない人物」であるサビクに興味を示したのだが、
サビクの名を騙ってする事と言えば、
「俺の剣は貴様のような弱者を斬るためにあるのではない」
と自分が強くなったかのような錯覚の中で酔うばかり。
結局、“何もしていなかった”。

そんな偽サビク……ライオと大柄な男とのやり取りを見ていた1人の男がライオに声をかけた。

「……お前、随分強いみたいだな」

男は頭にバンダナを巻き、口もとを隠すような服装をしていたため、一見して何者かはわからなかった。
ただ、それでもライオは相手から「ただ者ではない」という気配だけは感じていた。
「ただ者」にもなれないライオにすらわかる、強い気配だった。

「……何者だ、お前……?」

警戒しながらライオは問いかけた。

「俺は名もない旅人さ。
 ……名前が必要なら……」

男は空を見上げた。
見上げた先には青い空と白い雲だけが存在していた。

「……カエルム。
 そうだな、カエルム・ニジューロとでも呼べばいい」

いかにも今考えたように名乗るカエルムを前に、ライオは不審そうに睨み付けていた。

「……信用に値しないな」
「そういうなよ。
 名前なんて記号みたいなモノだろ?
 “サビク・モルグス”?」

ライオは、カエルムの口ぶりに自分がサビクではないと見抜かれているのではないか、という錯覚を覚えた。

(……いや、そんなハズはない。
 今は俺がサビク・モルグスだ!)

ライオはそんな強い意思でサビクを演じ続けようと思った時、銃声が鳴り響き、目にも止まらぬ速さで弾丸がライオの側を突き抜けていった。

「……っ!?」

「……探したぞ……大人しくオーブを渡してもらおう」

そう言いながら、銃を構えた金髪の仮面の男と、赤いナックル型の武器を装備した白髪の青年がカエルムとライオの前に現れた。

「サ、サビク……!
 お前を強者と見込んで頼みがある!
 こいつらは俺の宝を狙う悪人なんだ、追い払ってくれ……!」

カエルムの思いもよらない言葉にライオは静止してしまった。

『いや、無理です。 無理無理』

そんな言葉が喉まで出かかったが、今の自分はサビク・モルグス。
無様な姿を晒すワケにはいかない。

「……ま、まずはその武器を下ろせ。
 すぐに力に頼るのは弱者がする事……真に力ある者は無闇に戦わぬものだ」

ライオは精一杯脳内のサビク・モルグスになりきり、クールにその場をやり過ごそうとした。
しかし、ライオの声はうわずっていた上に、仮面の男が銃を下ろす事はなかった。

「俺が弱者……だと……? 面白い。
 ならば貴様のその命を以て、試してみるとしよう。
 ……俺が本当に弱者なのかどうか……ッ!」

明らかに仮面の男は怒っていた。
どうやらライオは言葉選びを間違え、相手の逆鱗に触れてしまったようだ。

「この人がこうなったら、戦わずに済ませようとは思わない方がいいんじゃないかな。
 それに……ボクも今は暴れたい気分だし……ね?」

白髪の青年もファイティングポーズを取り、ただならぬ威圧感を放ち始めた。
もうどうにもならない、万事休すだ。

『どうにかして逃げよう』

ライオの頭の中はその言葉でいっぱいになっていたが、カエルムがライオの背後に立ち、ライオを戦わせようとしていた。

「助けてくれ、サビク!
 お前だけが頼りなんだ!」

これまでのライオならば、迷わずに逃げ出しただろう。
しかし、今のライオにはサビク・モルグスとして作り上げた“謎の自信”……“硝子のプライド”があった。

だからと言って、剣術の心得も何もないライオが戦ったところで何がどうなる相手とも思えない。
パニック状態のライオの頭に1つの案が浮かんだ。

『正直に自分はサビクではないと明かしてしまおう』

これを実行する事は、ライオは“やはり何も出来ない口先だけの男”だと自分で認める事を意味していた。

『ダメだ!
 俺はやっと自分を嫌いにならない居場所を手に入れられそうなのに!』
『でも、死んだら意味ないだろ!
 生きてこそだ!』
『逃げなきゃダメだ、逃げなきゃダメだ!
 逃げ! 逃げ逃げニゲにげ!』
『でも! だけど!
 だって! だから!』
『俺は……俺は……ッ!』

ライオの中を様々な想いが駆け巡り……
そして、ライオは全速力でその場から逃げ出した。
武器を構えた男たちを無視し、助けを求めるカエルムも見捨てて。

「……」
「……」
「……」

残されたカエルムと仮面の男、そして白髪の青年。
最初に口を開いたのは仮面の男だった。

「……これで良かったのか……?」
「あぁ、手間かけたな、ルファク、アルゴル」

カエルムがバンダナを外すと、見慣れた赤毛の男の素顔があった。
本物の“サビク・モルス”だ。

「しっかし、お前らの悪人芝居には驚いたな。
 芝居でメシ食えるんじゃないか?」

サビクとアルゴルは『ルファクはいつも通りだ』と密かに思っていたが、ルファクのためを思ってか面倒を避けてか、何も言う事はなかった。

「兄さん……これからどうするの?」
「……ここから先は俺の役目……最後の仕上げだ」

サビクはそう言って、ライオが走り去った方向へと歩き出した。



逃げ出したライオは1人、物思いに耽っていた。

(……ハァ……命は助かったけど……
 これでよかったのかな……)

しかし、逃げ出してもライオの危機は去っていなかった。
木々の陰から餓えた獣がライオに狙いを定めていたのだ。
ライオはそれに気付く事もなく、隙だらけである事を確認した野獣は勢いよくライオに襲いかかった。

「……なッ!?」

ライオは間一髪の所で野獣の一撃を避け、相手の姿を見て青ざめた。

「な、なんだ、なんなんだ、お前っ!?
 俺を誰だと思ってるんだっ!?
 おっ……俺は……俺は……っ!
 輝く……サビっ……サビクだぞ!」

精一杯の虚勢も餓えた獣に通用するハズがなく、ライオは自らの非力さと、目の前に迫る「死の恐怖」に怯えていた。

(何もない……空っぽの人生だったな……)

全てを諦めたライオに野獣が飛びかかった瞬間、本物のサビクがライオの前に現れ、強力なカウンター攻撃を繰り出した。

「さ、さっきの人……!?」

ライオは“カエルム”と名乗った男の素顔に激しく見覚えがある事に気が付いた。

『まるで双子みたいですね』
『あの頃に戻ったみたい』

ライオの頭の中に、モロクの酒場で聞いた言葉の数々が甦っていった。

(あぁ、この男が本物だったのか……)

ライオは真実を理解し……そして、自らの行いを恥じて涙した。



野獣の驚異が去り、ライオはサビクに向かって土下座していた。

「この度は……本当にすみませんでした、サビク・モルグスさん……!」

ライオは土下座しておりサビクの顔を恐ろしくて見る事が出来なかった。

「……で、お前は“サビク・モルグス”になってみて、何か変わったのか?」

サビクの言葉がライオの胸に突き刺さった。

強がっても、他人の名を騙っても、偉そうに振る舞っても、どう足掻いてもライオはライオでしかなかった。
ライオはこれまで、自分という現実から逃げていただけに過ぎなかった。

「……俺の……俺の弱さが身に染みました……」

涙ながらにライオはそう語った。
サビクは、ライオの頭に優しく手を置いた。

「なら、良いじゃねぇか」

ライオはサビクの言葉が信じられず、驚いて顔をあげた。
そこにいたサビクの表情からは、ただただ、優しさがあふれていた。

「……俺にもな、現実から必死で逃げてた時期があったんだよ」
「えっ…本当ですか……?」
「あぁ……だが、そのままじゃダメなんだと仲間が俺に教えてくれた。
 強さってモンはさ、自分自身の弱さを理解して、向き合って……それでも諦めずに進む事で見つけられる場合もあるモンだと俺は思ってる。
 ……だから、弱さが見つかったなら良いじゃねぇか。
 お前は今、スタートラインに立ったんだ」
「スタートライン……」
「後は走り続けて、“本当に強くなる”だけ……だろ?」

「サビ……ク……さん……」

「あぁ、ただ1つ言っておく!
 俺は“サビク・モルス”だ。
 名乗るんなら間違えるなよ!」

サビクの思いがけない発言に、ライオは言葉の意味がわからず、目を丸くしていた。

「……言ったろ?
 名前なんて記号みたいなモノだ、って。
 俺だって生まれつき“サビク”だったワケじゃない、誰かがそう呼び始めただけだ。
 お前が“サビク”を名乗りたいなら名乗ったっていい」

そう言い残し、サビクはその場を立ち去ろうとした。
その時、ライオは立ち上がり、サビクの背中に向かい叫んだ。

「待ってください!
 ……“サビク・モルグス”はさっき死にました!
 ……俺は……今の俺は……!」

ライオの心の奥からの叫びを聞き、サビクは嬉しそうに微笑んでいた。



(後書き)
このお話はここでおしまいです。
ライオが最後に何を言ったのか、冒頭の墓が何を意味するものなのか、それをあえて語るつもりはありません。
たぶん、言葉にしなくても、わかってもらえるのではないかと。

…とまぁ、そんなこんなで!
サビクさん、お誕生日おめでとうございます!

サビクの誕生日なのになんでこんな話なの?と最初は感じたかもしれませんが、
ライオという人間を描きながらサビクという人間の存在を見つめ直していくという趣旨のお話だったりします。
それぞれの要素は変えていますが、
「堕落しきった男が、誰かと出逢い、自分の弱さを受け入れた上で、再び歩き出す」
というSide:サビクの大筋をなぞる展開になっています。

同時にサビクの持つ兄貴分的な面倒見の良さも出せたのではないかと自分自身では思っています。

正直な気持ちとしては、サビクの物語は既にある程度書ききっている感があるんですよね。
これ以上変にストーリーを広げて蛇に足を生やすのは、なかなか複雑なんです。

でも、「皆さんへの感謝」と「サビクへのお祝い」として今年も何かを形にしたい。
そこで、今回自分の中にいるサビクと向き合い、どんな話にするか案出しした結果、こういうモノが出来上がりました。

ただまぁ、今後絶対ストーリーを広げないと決めてるワケではありません。
蛇に足を生やす行為であっても、それで面白くなるならやるかもしれません。
自分自身、サビクは気に入っているキャラなので面白い展開になるならいくらでも書きたいとは思ってます。


今回実質上のメインとなった「ライオ」というキャラクターですが、星の名前や星座とは関係ない名前にしたいと思いまして、通勤電車に揺られながら考えていたところ、
ぼんやり頭に浮かんできた「ライス・オオモリ」という名前が元ネタです(マジで)w
ただ、流石にそれはあまりにあんまりだったので、アレンジしてライオにしました。
ライオンみたいで強そうでしょう?w
ライス大盛りですけどw

ライオの容姿がサビクに似ているのは…ある事情があってなのですが、語る日は来るのでしょうかw
(レオンの言った双子は不正解です、一応)

サビクのSSはシリアスになりがちなので、それを緩和する狙いもあってライオには他のキャラとは違う極端な方向に走っていただきました。
しかし、結局最後はシリアスチックになっちゃってますね…おかしいなぁ。


カエルム・ニジューロという偽名ですが、空を見上げてつけた名前だけあって、カエルムの意味はラテン語でそのまま「空」です。
この辺りは黒澤明監督の映画「用心棒」の「桑畑三十郎」、「椿三十郎」の「椿三十郎」(どちらも桑畑や椿を見て名乗った名前、もうすぐ四十郎らしい)へのオマージュです。
(だからサビクはニジューロというw)


ちょこっとだけ登場したルファクとアルゴルですが、「桃太郎 ~星の絆の物語~」以降、ルファクに悪役を演じさせたくなりましてw
しかし、立ち振舞いは本編とまったく変わりませんねw
アルゴルは当初予定していた「静けさを保った状態のダークアルゴル」状態です。
この話だけではわからないと思いますが、静かに悪い笑みを浮かべる事で得体の知れなさを表現しています。
いつかもうちょいちゃんと書きたいです。


物語の最後にサビクは「お前が“サビク”を名乗りたいなら名乗ったっていい」と言っていますが、
これはサビクの境遇だからライオに対してそう言ったのであって、星七号自身の考え・持論ではない事を一応補足しておきます。
こういう「なりすまし行為」はトラブルの原因にもなりますから、詐欺に繋がったり、他人を誤解させかねない場合は絶対にやめた方が良いですよ!


と、話がかなりあっちこっち行きましたが、改めてサビク誕おめでとうございます。
リアルタイムで時間が進んでいたら今頃は32~33歳。
これからも未来へ向かって前進しつづけてください。

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コメント

1. 前に友人とそんな話をしていたのですが

 サビクは連星とのことなので、似ている人=双子説を真っ先に思い浮かべた人がここにおりましたw

 ルファク&アルゴルという適役を選んだサビクさんは、映画監督とかにもなれそうだなとか思ったりした今日この頃ですw


 というわけで(?)、サビクさん、永遠の27歳のお誕生日おめでとうございます!!!www


>> ライス大盛り

 星七号先生、食べ過ぎですぉ(^-^)

Re:前に友人とそんな話をしていたのですが

お祝いコメントありがとうございます!

>似ている人=双子説を真っ先に思い浮かべた人
それはそれで面白そうではありますが、双子は既に2組もいるため、サビクも双子という設定ではない事を一応明かした次第ですw

>映画監督サビク
サビクさんに任せたらどんなのを撮るんでしょうね?w

>サビクさん、永遠の27歳のお誕生日おめでとうございます!!!www
サビク「お、おう、ありがとな。
 ……なんか照れくさいな、こういうの」

>星七号先生、食べ過ぎ
むしろこれを書いていた時期は空腹感はあっても夏バテで満足に食事が出来ない状態でしたw
枝豆は食欲がなくても食べられると過去の夏バテ時に経験してたので枝豆よく食べてましたね。
…ハッ、枝豆も酒のツマミか…?

プロフィール

HN:
星七号
職業:
ゲーム作ったり話書いたりする人