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Side:Shadow 39「Per-β“アルゴル”」

Strong Stars Story
  Side:Shadow
   39「Per-β“アルゴル”」


実験体Per-βの名で呼ばれる、戦うための道具……それが、ボクだった。

ボクは寝床に横たわりながら、自分の右手を見上げていた。

この掌には汚れらしい汚れは見当たらない。
だが、それは洗い流しているだけで、
本来であれば数えきれない程の血にまみれた、醜く汚れた掌なのだろう。

ボクは、気が付いた時にはこの
ゾルダート第1研究所で、実験体として「飼育」されていた。

ボクにはそれ以前の記憶は一切ない。
本によれば、人間には父や母という存在がいるようだが、
ボクはそれらの記憶を持っていない。

でも、そんなボクにも家族と呼べる存在がいた。
ボクが寝床を離れ、部屋から出ると、そこには「兄さん」の姿があった。

兄さん……この研究所での7人目の実験体、Oph-η。
ボクとは違う髪色の「兄さん」……
ボクらの間には血の繋がりはなかった。

この研究所に来て、泣いてばかりだったボクに手を差し伸べてくれた人……
それが、この「兄さん」だった。

「よう、アルゴル」

兄さんはボクにそう声をかけた。

「アルゴル」。
……ボクの「人間としての名前」だ。
この研究所ではボク達実験体は基本的に人間として扱われない。

ただ、戦うための道具を作り上げるため、
決して少なくない生命を奪い、痛みを植え付けられ、
「大人」達の監視下で「飼育」される。

そんな研究所の中にも、ごく少人数だが人間の心を持つ者もいた。
医療班に所属するマリアという人は、
訓練で傷付いたボクらを治療しながら、人間として扱ってくれた。

この「アルゴル」という名前も彼女が付けてくれたものだ。
ボクと同様に、他の実験体も彼女から人間としての名前を与えられている。
親のいないボク達にとって、彼女は本の中でしか知らない
「母親」を感じさせる、唯一のものだった。

「足、もう良いのか?」

兄さんはボクに問いかけた。

2日前、ボク達は、食事中に「大人」達が放った餓えた獣の群れに襲われた。
ボク達が「緊急時にどれだけ戦えるか」を試したのだろう。
幸い、その騒動での死者は出なかったが、
ボクは1人の実験体を守ろうとして、足を負傷した。

医療班の協力もあり、既に痛みはなく、傷も癒えた。
だが、昨日は1日中部屋で安静にしていたため、兄さんは心配していたのだろう。

「うん、もう大丈夫だよ。
 昨日休んだ分、今日はいつもより重い実験になりそうだけどね」
「そうか……
 スピカも心配してるから、後で元気な顔を見せてやってくれ。
 あれからずっと泣いてたしな」

実験体Vir-α「スピカ」。
ボク達には「妹」のような存在の実験体だ。
彼女には秘められた力があるように思えるものの、
戦う事にためらいがあり、大人達の評価は常に中の中か、中の下ぐらいだ。
「処分」は免れているが、いつまでこのままでいられるのかはわからない。

「わかったよ。
 兄さんも、スピカをなだめてくれて、ありがとう」
「気にすんな、俺はお前らの『兄』だからな」

兄さんはそう言って爽やかな笑みを浮かべた。

「だが、アルゴル。
 お前の足が無事で良かったぜ」
「大袈裟だよ、兄さん。
 この研究所でなら、足を失っても腕を失っても、
 再生させる技術があるじゃないか」
「……それはそうなんだが、
 そうやって得た足は、お前の足じゃない……
 なんだかそんな気がしないか?」

確かに、常識的に考えれば
何もない部分から手足が生えてくるとは思えない。

「いいか、アルゴル。
 人間には、前に進むために足があるんだ。
 ……お前の足が無事で、俺は本当に良かったよ」

兄さんの声色はとても穏やかだった。
兄さんはよく、こうやって独特な言葉でボクらを励ましたり、支えたりしてくれる。
たまに恥ずかしくなる事もあるけれど、ボク達はみんな、そんな兄さんが好きだった。

「そうだね。
 ありがとう、兄さん」





『足はもう良いのか?』

ガラスの向こう側から、白衣を着た大人が、ボクにそう問いかけた。
彼らは兄さんと同じ事を言っているが、
兄さんとは違い、「ボク」を心配しているワケじゃない。
「ボクの戦闘能力」が落ちていないかを心配しているだけだ。

「……問題ない」

『そうか……では始めるぞ』

ボクだけがいる白い部屋に、2日前と同じタイプの獣が数匹放たれた。

……いや、同じではなさそうだ。
動きがまるで違う。
この獣達、何らかの強化を施されたのだろうか。

それでも……

ボクは一瞬で獣に接近し、気弾を放った。
気弾を受けた獣はすぐに消滅し、そこには何も残らなかった。

ボクの敵じゃない。

1つ、2つ、3つ、4つ、5つ……

目の前にあるスイッチを次々と押すように淡々とボクは獣達を消し去った。
これだけではいつものウォーミングアップと大差はない……
こんなもので、済むハズがない……

ボクはそう考えていると、扉が開き、
腕を拘束された見知らぬ少年が姿を現した。

「……彼は?」

『新たなる実験体Cygタイプの出来損ないだ。
 既に存在価値はない……お前が処分しろ』

処分しろと大人は言うが、相手は人間だ。

彼らには人間として扱われていないのだろう……
でも、それでも、ボクだって許されるのならば人間を殺したくはない……

そんな事を考えていると、目の前の少年の拘束具がはずれ、
こちらを睨み付けてきた。

「コロ……ス……
 コロス……コロス……殺……ス……ッ!」

「『それ』は精神に異常をきたしている。
 既に人間ではないものだ、必要ない……殺れ」

……殺したくない。
殺したくない。
殺したくない。

何度もそう思いながらも、ボクは戦闘体勢を取っていた。

嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……

ボクの瞳から涙がこぼれた。

ボクは戦いたくない、殺したくない。
人間だって、獣だって、本当は殺したくないんだ。

だけど、戦わなきゃ、殺さなきゃ、ボクが死ぬ。
死ねば終わり、明日は来ない。

ボクが戦わなければ、兄さんやスピカが相手をさせられる。
ダメだ、兄さんやスピカにこんな辛い想いはさせたくない。

そう思う一方で、ボクの中に眠る何かが、悪魔のように囁く。

殺す。
彼を殺して、ボクは生きる。
ボクの価値を、大人達に証明するんだ。
ボクならやれる、ボクがやる。
殺さなければ、ボクが殺される。
それしか道はないんだ。
ボクはボクの居場所を守るだけだ。
彼は苦しんでる、だから助けてあげなきゃ。
ボクには力がある、あいつを殺す力が。
殺すために力があるんだ。

……ためらうな、ボクは強い。
ボクは強い。
ボクは強い……!!

殺す、殺す、殺す、殺す、殺す……!
殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ……!!

ボクは拳に力を集中させた。
そして、

「ごめんね……?」

「敵」が動き出すと同時に力を一気に解放した。
ボクの目の前で、「敵」だったものは一瞬で消滅した。

その後も、ボクはしばらくの間、
人、獣、様々な形をしたいくつもの「敵」と戦い続けた。
そして、全てを消し去ったボクは、
赤く染まった部屋の中で、自分の右手を見上げていた。
その掌は、この部屋と同じように赤く染まっていた。

……また殺した。

人は何かの生命を奪いながら生きている。
ボクは、今まで一体どれだけの生命を奪ってきたのだろう。

そんな事を考えるボクの心境など気にする事もなく、
ガラスの向こう側から、大人達の話し声が聞こえてきた。

『10歳でこの動き……まったく、恐ろしいものだな』
『あぁ……ヤツは猛獣……いや、悪魔だ』
『違いねぇや』
『だが、この悪魔を飼い慣らし、量産すれば、オレ達のビジネスは安泰だろうな』
『まったくですな』

こんな出来事は、ボクにとって当たり前の日常だった。
ボクは、いつまでもこんな歪んだ日々が続くのだと思っていた。



(星七号の独り言)
本当なら、時間をかけてゆっくり歪んでいく様を見せたいんですけど、ね…

前の話でミアが語る「超距離攻撃タイプの実験体」の名前が
「Car-α カノっち(カノープス)」でしたが
実は年表を作った際の設定の混在である事が発覚し、
正しくは「Sge-α シャムっち(シャム)」でした。

カノープスはカノープスで存在していますが、
「超距離攻撃タイプの実験体」ではなかったです。
申し訳ございません、現在は修正しております。

誕生日に公開するにはあまりにアレすぎるのですが、
こういう過去があって現在のアルゴルに至っているというのも事実であり…
そんなアルゴルの未来がどうなるかは、これから描いていければと思います。

遅くなったけど、ハッピーバースデー、アルゴル。
こんな話を書いたけど大事な我が子です。
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星七号
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ゲーム作ったり話書いたりする人