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Side:Shadow 40「アルゴルの平穏」

Strong Stars Story
  Side:Shadow
   40「アルゴルの平穏」



『敵』だったものを倒し、赤く染まった部屋を出たボクは、
シャワールームで汗を流し、いつものように
オーブで全身のスキャニングを行っていた。

このスキャニングという行為には体調管理などの意味があるのだという。
それが本当なのかはわからないが、逆らっても良い事はない。
だからボク達は何も言わずに従っていた。

「よう、Per-β。
 調子良さそうだな、ケケケ……」

いつもガラスの向こうでこちらを見ている『大人』の1人がそう言った。
彼はどうやら『大人』達の中でも特に高い地位にいる人間のようだ。

「お前には期待してるんだ……裏切るなよ?」

そう言って『大人』はボクの肩を叩いた。
ボクの中に、強い嫌悪感が芽生えるのを感じた。

勢いのままにこの男を殺してしまいたかったが、
ボク達の身体には『大人に逆らえない仕掛け』が施されていた。

「……裏切りたくても、裏切れないじゃないか」

そう言う事がボクには精一杯の反抗だった。



シャワールームを出たボクは、スピカの部屋を訪れていた。
兄さんとの約束もあったし、何よりボクも、スピカはきっと泣いているだろうと思ったからだ。

「スピカ、ボクだよ」

そう伝えると扉が開き、涙を流しながらスピカがボクに抱きついてきた。

「どうしたの?
 何か悲しい事があった……?」
「……ちがうの……
 アルゴルが死んじゃったらどうしようかと思って……」

スピカは泣きながら、そう話してくれた。
きっと、自分のせいでボクが怪我をした罪悪感や、
最悪な状況をたくさん想像しては不安でいっぱいになっていたのだろう。

だからこそ、ボクはスピカの頭を優しく撫でた。

「大丈夫、ボクは死なないよ。
 殺されても死ぬもんか。
 ボクの行く先はボクが決める。
 誰にも邪魔させない」

ボクがそう話すと、泣き止んだスピカはボクの顔をじっと見た後、小さく微笑んだ。

「……なんだか兄さんみたい」

そう言われて、ボクも嬉しかった。

「兄弟だからね」

ボクは笑顔でそう答えた。

「わたしもいつか、兄さんみたいになれるかな……?
 兄さんはすごいんだよ、まるで、この本に出てくる、ヒーローみたい」

マリアさんに貰って大切に読んでいる古い本を手に取りながら、
スピカはそう言った。

「ボクも、そう思うよ」



スピカが落ち着いたのを確認し部屋を出ると、
ボクは2人とすれ違った。

ルファクとミア……ボク達と同じ実験体だ。

「あ、アル君。
 今ね、マリアさんにお菓子の作り方を教わってきたんだよ〜」

医療班のマリアさんは、たった1人、ボクらに優しく接してくれる『大人』だった。

「分けてもらえたお菓子の材料で
 これから作るけど、アル君も食べない?」

お菓子なんてボクらには中々口にする機会のないものだ。
ボクも興味がないワケではなかったけど……

「…………」

ルファクが無言でボクを見ていた。

ルファクとミアの関係はボクにもわかっていた。
不器用なルファクが何を言いたいのかはボクにも察しがつく。
だから、あえて邪魔をするつもりもない。

「ボクはいいから、2人で食べなよ」

ルファクの無言の圧力を微笑ましく感じながら、
ボクはミアの誘いを断った。

「……?
 ルファ君、アル君と喧嘩でもしてる?
 わたし達は兄弟なんだから、仲良くだよ〜」

ミアは不思議そうに、そう不器用な性格のルファクに伝えた。

「……別に喧嘩は……」

そう言いつつも自分の態度が原因であるという自覚のあるルファクに

「ボクらは仲良しだよ。
 ね?」

そう言って助け舟を出した。

そんな時、また別の声が聞こえてきた。

「なんだ、喧嘩でもしたのか?」

そう言ってカカブ兄さんが駆けつけてきた。

「ううん、喧嘩じゃないんだって。
 あ、カカブお兄ちゃんお菓子食べる?」
「お菓子!?
 食べる食べる!」

ご機嫌な様子のカカブ兄さんだが、
やはりルファクの無言の圧力がカカブ兄さんに向けられていた。

「…………」

「カカブ兄さん、お菓子はまた今度にしようよ。
 ちょっとお願いしたい事があるからさ」

「ん、そうか?
 ……そうだな、おっけおっけー!」

状況が飲み込めていないカカブ兄さんを強引に連れ出し、
ボクはルファクとミアの時間を邪魔しないようその場を離れた。

「……2人とも、急にどうしたのかな〜?」
「気にするな、大した事じゃないだろう。
 後でお菓子は俺が届けておく」
「そうだね、そうしよっか」



「なるほど、そういう事か。
 よく気づくなぁ、アルゴルは」

ルファクはミアと2人でいたいのだという事情を話しながら
ボクとカカブ兄さんが歩いていると、まだまだ幼いアルナとアイリが
陰からじっとこちらを見つめているのに気が付いた。

「あのね、この本……」
「いっしょにあそぼ!」
と同時にボクに声をかけてくる2人。
2人は向かい合って、どちらが先に話すかでアイコンタクトを取っているようだ。

「カカブ兄さん、アイリと遊んであげてよ」
「よし来た、おっけおっけー!」

カカブ兄さんはアイリを肩車してあげていた。

「それで、どこがわからないの?」

その間にボクはアルナの本でわからない部分を教えてあげた。

……穏やかな日常の中の癒される時間。
この時間にボクは、幸せを感じていた。



……それでも、癒されているハズなのに、
何故か満たされない気持ちがある。

『殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ……!!』

ボクの中には悪魔がいる。
これはボクであって、ボクじゃない。
ボクの中の『大人達の道具』としての面だ。

偽りの兄弟との時間に癒やされるボクと、
生きるために敵を殺し、大人達の期待に応えるボク。

ボクの中に悪魔がいるのか、
悪魔が兄弟ごっこを演じているだけなのか。

……考え事をしながら自室への道を歩いていると、
何かの書類が落ちているのが目についた。

それはボク達実験体のデータについてまとめた報告書のようだった。
なんとなく中身を眺めていくと、ボクの目に覚えのない情報が飛び込んてきた。

『ゾルダート第2研究所』
『Per-βを超える実験体』

「Per-β、それをこちらに渡してもらおう」

振り返ると、1人の『大人』がボクが拾った書類の受け渡しを要求していた。

「……落とし物を拾っただけだよ」

ボクは静かに書類を手渡した。

「そうか、ならば中は見ていないな?」
「……もちろん」

書類を受け取った『大人』はその場を去っていった。

……それにしても、
『ゾルダート第2研究所』
『Per-βを超える実験体』
か……

ボクの中に、煮え切らない感情が芽生えていた。



(星七号の独り言)
お待たせしております、久しぶりの更新です。

前の話が暗くて重い内容だったので、
逆にアルゴルが感じていた「平穏」の部分を掘り下げた話です。

詰め込み過ぎかなという気持ちがあるのですが、
色々考えるとこれで1話かなと。

一応補足しておくと、ルファクは別にお菓子はどうでも良くて、
ただミアと2人きりでいたいだけです。

またこの話の中ではアルゴル目線なので触れていませんが、
ミアは作ったお菓子をアルナアイリやスピカ達にも配るつもりです。
なので1人あたりの数は少なくなりますが、
少しでも美味しいものをみんなで食べたいのがミアです。
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コメント

1. これで10歳…ですと…!?www

 兄さんとルファクの影響で、この齢にして既にお気遣いの紳士としての英才教育を受けてしまっていたのですね…w

 そんな彼を超える実験体…|ω・)誰だろ…

Re:これで10歳…ですと…!?www

コメントありがとうございます!
いやはや、気付いていただけて読んでいただけて嬉しいです。
ありがとうございます!

>10歳
39話で「10歳でこの動き」と言っていましたが、
大体10歳ぐらいというつもりで書いたのでもしかしたら±2歳ぐらいの誤差はあるかもしれません。
11〜12歳だったとしても小学校高学年ぐらいの年頃ですね。

星七号にも兄と妹がいますが、中間子は気遣い力が求められるのです。
アルゴルはそういうイメージです。
大人の期待に応えなければいけないというプレッシャーもあるでしょうしね。

>そんな彼を超える実験体
イルちゃん……ではないですね!w

2. 仲良きことは

ルファクは「素直じゃない」とか作中言われていますが、一番わかりやすくて好青年ですね!……と思いましたが、リアルに存在したら「なんかいつも怒ってない?」ってなりそうです……アルゴルは空気読めて偉いな……でもその空気読める能力のせいで生きづらそう。

本編だとアルナとアイリは特別ルファクが好きですが、Side:Shadowだと全お兄ちゃんとお姉ちゃんが好きで、兄姉たちも末っ子のアルナとアイリを特に気にかけてるといった感じなのかな。
兄弟姉妹の仲が良いのは癒されるので、大変良いと思います。

Re:仲良きことは

コメントありがとうございます!
更新に気付いていただけて、読んでいただけて嬉しいです!

>一番わかりやすくて好青年ですね!
>リアルに存在したら「なんかいつも怒ってない?」
ルファクは不器用で自分の気持ちをストレートに言葉にしたりは出来ませんが、
根本的には言葉にしないだけでまっすぐだと思ってます。
まぁ、リアルにいたらあんまり関わりたくないかもしれませんねw
理解者が近くにいてくれてよかったね。

>でもその空気読める能力のせいで生きづらそう
それでも彼はそんな平穏に癒やされていたので、嫌ではなかったのだと思います。

>アルナとアイリ
実装版では実験体の中でもグループが出来ていましたが、Side:Shadowでは「1つの兄弟」という関係で扱っています。
その中でも特別仲良しはありますが、みんなある程度仲良いです。
他に寄り添える相手がいないので、生き抜くためにも必要なのでしょう。

ルファクやミアとアルナアイリの関係はまだちゃんと描けてないのでこの先で描かなきゃいけないポイントの1つですね。

プロフィール

HN:
星七号
職業:
ゲーム作ったり話書いたりする人