Strong Stars Story
Side:Shadow
5「完全無欠」
大きな闇が、うねりながら私を飲み込もうとしていた。
「私は……負けられない……っ!」
私は剣を構えて闇を斬り裂こうとした……
が、実体を持たない闇は断ち斬れず、攻撃はすり抜けてしまうだけだった。
闇が大きくうねり、私の右腕を飲み込んだ。
闇に飲まれた右腕はまるで言う事を効かず、失われたも同然の状態だった。
「……くっ……!?」
これじゃあ、戦えない……!?
……いや、まだ左手がある……っ!
私は慣れない左手で剣を拾い上げ、構えた。
しかし、強大な闇によって、
私の足は、腕は、体は、顔は、次々と飲み込まれそうになっていた。
「ダメっ……
もう、これ以上戦えないよ……兄さん……っ……」
※
「スピカ、どうかしたのか?」
何度見たかもわからない悪夢の光景が一転、
私の前には、「いつも」と変わらない「兄さん」の姿があった。
「……また、こわい夢を見たの……」
そう話す私に、兄さんは優しく微笑み、頭を撫でてくれた。
「でも、夢でよかったな」
「……うん……」
私は、今にも泣き出しそうな、不安に溢れた表情で兄さんに問いかけた。
「……兄さんは、戦うのがこわくないの……?」
私の問いかけに、兄さんは一瞬だけ考えた後、小さく笑っていた。
「……恐いさ。
今までだって、何度も人が目の前で死んだ。
今度は俺の番……そう思うと恐くて仕方ない」
兄さんの言葉を聞いて、私は顔を伏せてしまった。
でも、兄さんの言葉はそれだけでは終わらなかった。
「……だから、俺は目の前の現実に、全力で立ち向かうんだ。
死なないために……生きるために……
全力で生きる事、それが、未来に繋がる……ような気がするからさ!」
兄さんの笑顔は、より明るいものへと変わっていった。
その笑顔につられて、私も、いつの間にか笑顔になっていた。
「悩んだ時は、自分にこう言い聞かせるんだ。
『一度走り出したら立ち止まるな。
最後まで走り続けろ!』
一緒に、全力で生き抜こうぜ、今を!」
そう言った後、兄さんは「なんて、ちょっとクサかったか?」と、
顔を少し赤くして笑っていた。
そんな兄さんの笑顔に、私はいつも助けられていた。
※
でも、今はもう……あの頃、私達に優しく手を差し伸べてくれた兄さんはどこにもいない。
「……」
兄さんの時間は、あの日、あの時、止まってしまった。
……だから、私が……私が兄さんの代わりに強くなろうと思った。
強くならなきゃいけないと思った。
多くの人を守って、助けて、力になって……
私が兄さんにしてもらったように、私がみんなに手を差し伸べたい。
そのために私は、茨の道を走り始めたんだ。
誰にも頼らずに……いつも、1人で……
もう、恐くない。
もう、痛くない。
もう、逃げ出さない。
たとえ、苦しんでも、傷付いても、何かを失ったとしても、
誰かの力になれるならそれで良い……
一度走り出したら立ち止まるな。
最後まで走り続けろ!
……そうだよね、兄さん。
私はもう、あの頃の弱い私じゃないよ。
※
目が覚めるとそこは、港街のベンチだった。
いつの間に眠ってしまったのだろう……
気が付くと、私の目からは涙が流れているようだった。
「……スピカ、どうかしたのか?」
傍にいたテンジが私に問いかけた。
「ううん、なんでもないよ」
私は頑張ってなんとかいつものように、明るく振る舞って見せた。
そんな時だった。
ハイデルさんが、私の名前を呼びながら、一生懸命に駆け寄ってきた。
「ハイデルさん……?
どうかしたんですか……?」
「たっ、大変なんですっ!
私が取り寄せた研究材料が刃物を持った男に盗まれてしまって……!」
ハイデルさんが困っている……私が、力にならないと……!
「私に任せてください!
場所は、どこですか?」
私に続くように、テンジも
「俺も行こう」と名乗りを上げた。
「どっちが犯人を捕まえるか、また勝負だね。
私、負けないからね!」
私がそう言うとテンジは
「争う必要があるのか……?」
と疑問を口にしていたが、私はその疑問に答えを出さないまま、剣を持って現場に駆け出した。
「モタモタしてると置いてくよ!
一度走り出したら、立ち止まるな!
最後まで走り続けろ! ……なんてね!」
(星七号の独り言)
星七号、夢ネタ使いすぎ問題。
いや、今回のは大きく意味があるので、許してくださいw
遠い日に全面的に自分で書いたSide:スピカをセルフリメイクするにあたって
何をやりたいかなーと考えた時に、このエピソードは欠かせないよな、と思ってた部分です。
最近更新ペースを上げていますが、毎回これでやれるワケではありませんw
スピカ編が終わるまではテンポ良く行きたいですが…仕事状況と体調次第かな。