Strong Stars Story
Side:Shadow
EX2「幻の名酒」
酒場「デイブレイク」にて。
俺は再び、イルという名の脅威を前に、冷や汗をかいていた。
「テンジちゃんはお酒、飲まないのぉ~?
アタシ、テンジちゃんがお酒飲むところ、見たいわぁ~♪」
酒に酔ったイルは俺に抱きつき、俺を見つめてきた。
今回も俺が慌てていると、ランドルフが
今回も困ったような笑顔で助け船を出してくれた。
「そうだ、テンジ。
砂漠の街まで届け物をしてもらえないかい?」
「行こう、すぐに行こう。
そういうワケだ、悪いな、イル」
「もう、ツレないのね……楽しくなりそうだったのに」
そんなこんなで、俺はイルという名の脅威から逃げるようにデイブレイクを出た。
※
届け物を、ランドルフの知り合いがやっているという店へ届け、
ぼんやりと空を眺めていると、覚えのある声が聞こえてきた。
「よう、テンジ。
良いタイミングで会ったな」
振り返ると、そこにはサビクの姿があった。
「……サビク、またサボりか?」
俺がそう問いかけると、サビクは不機嫌そうにこちらを睨み付けた。
「お前……開口一番にそりゃねェだろ……
今日は休みを貰ったんだ。
北の街まで行ってみようと思ってな」
「……北の街……?」
「この間、煙草屋に聞いたんだが、
北の街では、一年のうち決まった時期にだけ出回る
『幻の名酒』ってのがあるらしいんだ。
……で、どうやら今がまさに、その“決まった時期”らしいんだよ」
サビクは少年のように嬉しそうに、語り始めた。
……まぁ、そもそも少年は酒の話などしないのだが。
「テンジ、暇なんだろ?
一緒に行って、荷物持ちでも手伝えよ。
で、帰ってきたら一緒に飲もうぜ」
「そうは言っても、俺はあまり酒を飲まないからな……」
そう言って、サビクの誘いに悩む俺だったが、
「誰だっけな、俺を全力で2発も殴ったヤツがいた気がするんだが……
頭を殴られたせいか、さっぱり思い出せねェなァ……?」
サビクがわざとらしくそんな話をするので、
(まぁ、せっかくこの街に来たのだし、少しぐらいは良いだろうと思い、)
サビクに同行する事にした。
※
ところが……
「アンタら、他所から来たんだろう?
この街では、他所者にこの酒を売らない決まりになってるんだ」
酒屋の主人は、決してサビクに「幻の名酒」を売ろうとはしなかった。
「そこを頼む!
多少、割高でも良いからよォ……?
それだけが目当てで、わざわざこの街まで来たんだぜ……?」
サビクは必死に交渉を続けたが、酒屋の主人は首を横に振る一方だった。
※
「……だッ! クソッ!!」
サビクは見るからに不機嫌そうに、小石を蹴り跳ばしていた。
「……諦めて帰るか?」
呆れ半分に俺はそう話したが、サビクは真剣な表情のまま、考え込んでいた。
「いいや、まだ何か手はあるハズだ。
例えば……そうだな、色仕掛け……」
サビクはそう言いかけて、言葉を飲み込んだ。
「……色仕掛け……?
俺か、サビクがするのか……?」
「……いや、失言だ、忘れろ……」
何か良い手はないものかと、2人で考えていると、
近くから賑やかな声が聞こえて来た。
俺達が様子を見に行くと、どうやら「大酒飲み大会」の開催準備をしているようだった。
「おい、見ろよテンジ……!」
サビクに言われ、紙に書かれた賞品一覧を見ると、
その中には、大きな文字で「優勝賞品 幻の名酒」と書かれていた。
「なぁ、この大会には誰でも参加出来るのか?」
サビクは、大会運営の男にそう問いかけた。
「あぁ、参加費さえ払えばね。
アンタも参加するかい?」
サビクは、嬉しそうに「あぁ!」と返事をしていた。
「参加費がかかるとはな……大丈夫か、サビク……?」
俺の問いに、サビクは楽しそうな笑みを浮かべていた。
「誰にモノ言ってんだよ。
俺は勤務中にだって酒を飲むような用心棒だぜ?」
それは決して誇るべき事ではないように思えるが、
サビクが自信を持っている事だけは、良く伝わってきた。
「そうだったな……健闘を祈る」
※
そして……
「優勝は、サビク・モルスさんです!」
サビクは、破竹の勢いで酒を飲み続け、2位に圧倒的な差を付けて、見事優勝を果たした。
あれだけ勢い良く飲んでいたのに、ずっと楽しそうな表情のままだったのが
とても印象的だった。
「最強の酒豪・サビクさんには、“幻の名酒”と副賞が送られます!」
サビクは嬉しそうに、瓶に入った酒を受け取った……が……
「ちょっ……ちょっと待て……
幻の名酒って……まさか、このポリン酒の事か……?」
サビクは唖然としながら、司会者に問いかけた。
ポリン酒……酒を飲まない俺でも知っているほどに、
広く流通している、とても一般的な商品だ。
デイブレイクでも、フォルトゥナでも当然取り扱っている。
「いやだなぁ、これは“幻の名酒”ですよ!
“ただのポリン酒”なんかじゃありませんとも!」
司会者は強引にそう言い切り、サビクに反論の隙を与えなかった。
「……どういう事なんだ?」
俺は、近くにいた大会運営の者に問いかけた。
「おたくら、他所から来たんだろ?
それじゃあ知らないのも無理はないがさ、
この街には昔から、酒飲みオヤジが大勢いるのさ。
酒飲みオヤジ達は、適当な理由を作っては仲間達と酒を飲んだ。
その理由の1つが“幻の名酒を手に入れた”……
これで、大体わかったろ」
※
「……はぁ、わざわざ遠出してまで、ポリン酒を掴まされるとは……
酔いも一気に冷めちまったぜ」
不機嫌そうにサビクはそう漏らしていた。
特に酔った様子はなかったような気がするが……
「幻の名酒はその名の通り、“幻”である。
酒そのものに価値はなく、誰と飲み、いかに楽しむかによって
その酒の価値は変わってくる……と、運営の男は言っていた」
「ハァァァァ……ったく……
帰ったらテンジ、一杯付き合え」
サビクは、ため息混じりにそう言った。
「あれだけ飲んだのにまだ飲むのか……?」
「飲まなきゃやってられねェんだよ。
それに……お前とまた、飲むのも良いかと思ってな」
そう言いながら、サビクは小さく笑っていた。
「……さァて、せっかくの遠出だ、レナ達に土産でも買ってってやるか。
レオンには……チョコで良いだろうが、レナにはどうするかな……」
立ち上がったサビクの表情は、くすぶり続けていた頃とは
まるで別人のように、とても生き生きとしたものだった。
「揃いの指輪でも買うといい」
「馬ァ鹿、ンな金ねェよ」
「……あったら買うのか?」
「お前……店長みたいな事言うなっつーの……」
(星七号の独り言)
サビクさん、お誕生日おめでとうございまーす!
サビク誕記念も兼ねて、Side:ShadowのEX2話でした。
スピカはかなりラブラブデレデレな感じ(?)でしたが、
サビクは「平和な酔いどれ日常系(?)」の話でした。
見ればわかると思いますが、Side:Shadowのサビクは酒との距離を置いてませんw
ただ、逃避のために飲むスタイルではなくなっているのは、
なんとなくおわかりいただけるでしょうか。
サビクと酒は切り離せないキャラクターですからねw
好きなものに夢中になっている人というのは見ている側も案外楽しかったりしますし!
何はともあれ、サビクさんおめでとうございます!
いつまでも、サビクさんが幸せでありますように。
1. おたんじょーびおめでと~(酔)
これを言われてしまったら、もうとことん付き合うしかありませんね。
ポリン酒が気になって仕方ない今日この頃のファイです。
確か生体4Fのセリアが、ポリンジュースに関する論文を書いてましたっけ?
…ポリンって何ぞや? 液体になると美味しくなるのか? うーむ…
本編エクストラでは、元々酒は好きじゃないと言ってましたが、
こちらのサビクさんはお酒大好きなキャラなのでしょうか?
幻の名酒の話をしている時にはさぞや瞳をキラキラさせていたことでしょう。
お酒は美味しいですからね、仕方ないね(ぇ)
…などという酔っ払いの戯言はさておきまして、
サビクさん、お誕生日おめでとう!!
Re:おたんじょーびおめでと~(酔)
>やっぱり全力で2発殴られたこと
この辺は男同士の友情表現として入れてみましたw
>ポリン酒
lala先生が描かれていたポリンラベルのお酒ですw
中身にポリンが使われているかは定かではありませんw
>こちらのサビクさんはお酒大好きなキャラなのでしょうか?
元々好きだったかは別として、今は大好きだと思います。
サビクの話では堕落のイメージで「酒」を使いましたが、
酒自体が悪なのではなく、付き合い方次第だろうという考えが星七号には元々ありまして。
オチとして、ただ酒を辞めさせるというのは、酒自体を否定するようにも思えて、
正直スッキリしていない部分もあったんです。
サビクの話で言いたいのはそういう事ではないですし、
もう一度サビクと向き合った結果、今回は最終的に、酒との付き合い方を変える方向にしてみました。
何が正しいとか、間違ってるとかそういう話ではないと思うので、解釈への好みはあると思いますが、
Side:Shadow世界のサビクさんは、これからは良い仲間と、楽しくお酒を飲んでいくと思います。