Strong Stars Story
Side:Shadow
EX5「指輪」
……16年前。
実験体Per-α、7歳。
通称「ルファク」。
その頃のルファクは何故自分がこの施設にいるのか、
自分が何者で、本当の名前も、
どんな家庭環境で、どんな暮らしをしていたのかもわからぬまま、
ただ『大人』の指示のままに戦っていた。
その日のルファクは適正を調べるため、
剣を片手に携え、獣と戦わされていた。
ルファクは慣れぬ戦闘に恐怖心を抱いていたが、
生きるため、必死の想いで戦っていた。
「……くっ……後ろか……!!」
『現在のルファク』から見れば、大した事のない獣だったが、
『その頃のルファク』には物言わぬ確かな恐怖だった。
自分を取り囲む複数の獣を相手に剣を片手に戦い続けたが……
「……な……っ……」
一瞬の判断ミスからルファクは大怪我をしてしまい、
血だまりの中へと倒れた。
※
暗闇の中を何時間も、ルファクの意識だけがさまよっていた。
出口のない暗闇の中を孤独に歩き続け、ついに心が折れかけた時、
ルファクの中に、光が射し込んできた。
意識が戻り、ルファクが目を開くと、そこには1人の少女の姿があった。
「だいじょうぶ?」
ルファクの全身の傷は癒えており、痛みもまるでなくなっていた。
それを察して、少女はニコッと微笑んだ。
「よかった!
たしかルファ君だよね!
わたし、ミアだよ!」
「……ルファ君じゃない、ルファクだ」
それが、ルファクとミアの最初の会話だった。
※
当時からルファクは1人でいる事が多かった。
そんなルファクを気にかけて、サビクやカカブが声をかける事もあったが、
それ以上にルファクを気にかけていたのがミアだった。
「ルファ君♪」
何度ミアがそう呼んだだろうか。
その度ルファクは、
「……ルファ君じゃない、ルファクだ」
と言って立ち去ったが、ミアは気にせず何度でもルファ君と呼びかけた。
※
ある日の戦闘訓練で、ルファクはミアとペアを組む事になった。
「ルファ君とはたぶん同い歳?だけど、
ここにいるのはわたしの方が2年も長いから、
遠慮なくわたしに頼って良いんだからね♪」
ミアはお姉さんぶりながら、そう言っていた。
「……うるさい、気が散る」
ミアの言葉を軽くあしらうルファクだったが、
ルファクが攻撃する直前にルファクの攻撃能力を高め、
ルファクが危機に陥る寸前に光の壁がルファクを守る。
ミアは最適のタイミングで的確に、ルファクの行動に必要な支援を行った。
いつもは苦戦を強いられる獣を難なく倒し、
血に塗れた部屋の中で、ルファクはミアに声をかけた。
「……どうして俺の行動がわかるんだ?」
突然の問いかけに、ミアはニコッと微笑んだ。
「わたし、ルファ君ともっと仲良くなりたいから♪」
ミアのそれは、まるで答えになっていなかった。
だが、その答えに思わずルファクは笑ってしまっていた。
「プッ……ふふふっ……変な女だ……」
この瞬間、ルファクはこの施設に来て初めて、他人に『興味』を持った。
※
その日から、ルファクはミアと共に過ごす時間が増えた。
徐々にサビクやカカブとも話すようになっていき、
時間はかかったがスピカやアルナ、アイリ達とも関わるようになり……
ゆっくりと、それでも確実に「疑似兄弟」の一員になっていった。
※
ゾルダート第1研究所にはほとんど娯楽はなかったが、
医療班に所属するマリアは様々な本を貸し与えてくれた。
ミアはルファクの隣で本を読む事が多かった。
見た事のない景色、見た事のない世界。
本の中には自分の知らないものがたくさんあり、
その凄さを隣で静かにしているルファクにいつも語っていた。
ある日、ミアが読んでいたのはありふれた恋愛物語だった。
「ねぇ、ルファ君。
結婚ってどう思う?」
ミアの突然の発言にルファクは困惑していた。
「……急に何を言い出すんだ?」
「結婚って凄い憧れる事みたいなんだけど、わたしには良くわかんないんだ~。
だから、ルファ君はどう思う?」
言いたい事は色々とあったが、
ルファクは話をややこしくしないために飲み込んだ。
「……俺にも良くわからない」
ルファクの返事を聞き、ミアは少し残念そうな顔をした。
「そっか~……」
だが、ミアはすぐにいつもの笑顔を取り戻した。
「そうだ!
じゃあ、大人になったらわたしと結婚しようよ!
そしたら結婚がわかるかも♪」
ミアは名案と言わんばかりの笑顔を見せた。
一方でルファクは顔を赤らめながら戸惑っていた。
「……結婚っていうのは、好き合う者同士が……」
「わたし、ルファ君大好きだよ♪」
ミアの言う「大好き」の気持ちが、
確かな恋愛感情だったのかは『今のルファク』にもわからない。
だが、この日をきっかけにルファクは
ミアをそれまで以上に目で追ってしまうようになっていた。
そして、いつの間にかルファクはミアに、確かな恋愛感情を抱いていた。
※
そして……長い時が流れ、成長したルファクとミアは自然と恋人同士になっていた。
「ルファ君♪」
「なんだ?」
ルファクは穏やかな笑顔で問いかけた。
『……ルファ君じゃない、ルファクだ』
そう言っていた少年と同一人物とは思えない。
ルファクの氷の心をミアが少しずつ溶かしていった結果だろう。
「これ、ルファ君にあげる♪」
ミアが差し出したのは1つの指輪だった。
これはミアがゾルダート第1研究所に来た時から持っていた指輪だった。
施設の『大人』に取り上げられる前に、
マリアが機転を利かせたおかげで、今もミアの手元にある。
それが何故ミアのものになったのかを知る術はないが、
唯一の『施設に来る前のミア』を感じさるものだった。
「貰えない……これは、ミアの大切なものだろう……?」
「大切なものだから、ルファ君にあげるんだよ。
いつかした『約束』、覚えてるよね?」
ミアは笑顔で問いかけた。
「……忘れるハズが、ないだろう……」
ルファクは顔を赤らめながらそう呟いた。
「いつか……自然に囲まれた場所に行ってみたいな」
「……行こう。いつか、2人で……」
そんな日が、いつかきっと訪れると願っていた。
強く、信じていた。
だが、現実は………………
※
それから、いくつもの時が流れ……
仮面で顔を隠したルファクは1人、
首飾りにした『指輪』を握りしめていた。
仮面に隠された顔には、
かつてミアの前で見せていたあの穏やかな笑顔はなかった。
「……ミア……俺は必ず、全てを終わらせる……
全てが終わったら……その時は……」
その言葉には強い決意が秘められていた。
そして、ルファクは静かに、夜の闇へと消えていった。
(後書き)
ルファ君、ハッピーバースデー!
誕生日という事で、時間ないなりに何か話を書こうと思ったんです。
Side:Shadow版のルファクとミアの過去話は設定こそあったのですが、
そこまで掘り下げて語る事はないだろうな~と思ったので、
この機会に話にしちゃいました。
誕生日になんて話を書くんだ、俺は。
実装版S.S.S.ではミアはルファクと双子設定になりましたが、
元々最初にイメージしてたのはこっちです。
好みは色々あるでしょうけど、可能性としてはあり得たルファクの姿だと思っていただけたら。