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Side:Shadow EX5「指輪」

Strong Stars Story
  Side:Shadow
   EX5「指輪」


……16年前。
実験体Per-α、7歳。
通称「ルファク」。

その頃のルファクは何故自分がこの施設にいるのか、
自分が何者で、本当の名前も、
どんな家庭環境で、どんな暮らしをしていたのかもわからぬまま、
ただ『大人』の指示のままに戦っていた。

その日のルファクは適正を調べるため、
剣を片手に携え、獣と戦わされていた。

ルファクは慣れぬ戦闘に恐怖心を抱いていたが、
生きるため、必死の想いで戦っていた。

「……くっ……後ろか……!!」

『現在のルファク』から見れば、大した事のない獣だったが、
『その頃のルファク』には物言わぬ確かな恐怖だった。

自分を取り囲む複数の獣を相手に剣を片手に戦い続けたが……

「……な……っ……」

一瞬の判断ミスからルファクは大怪我をしてしまい、
血だまりの中へと倒れた。



暗闇の中を何時間も、ルファクの意識だけがさまよっていた。
出口のない暗闇の中を孤独に歩き続け、ついに心が折れかけた時、
ルファクの中に、光が射し込んできた。

意識が戻り、ルファクが目を開くと、そこには1人の少女の姿があった。

「だいじょうぶ?」

ルファクの全身の傷は癒えており、痛みもまるでなくなっていた。

それを察して、少女はニコッと微笑んだ。

「よかった!
 たしかルファ君だよね!
 わたし、ミアだよ!」

「……ルファ君じゃない、ルファクだ」

それが、ルファクとミアの最初の会話だった。



当時からルファクは1人でいる事が多かった。

そんなルファクを気にかけて、サビクやカカブが声をかける事もあったが、
それ以上にルファクを気にかけていたのがミアだった。

「ルファ君♪」

何度ミアがそう呼んだだろうか。
その度ルファクは、
「……ルファ君じゃない、ルファクだ」
と言って立ち去ったが、ミアは気にせず何度でもルファ君と呼びかけた。



ある日の戦闘訓練で、ルファクはミアとペアを組む事になった。

「ルファ君とはたぶん同い歳?だけど、
 ここにいるのはわたしの方が2年も長いから、
 遠慮なくわたしに頼って良いんだからね♪」

ミアはお姉さんぶりながら、そう言っていた。

「……うるさい、気が散る」

ミアの言葉を軽くあしらうルファクだったが、
ルファクが攻撃する直前にルファクの攻撃能力を高め、
ルファクが危機に陥る寸前に光の壁がルファクを守る。
ミアは最適のタイミングで的確に、ルファクの行動に必要な支援を行った。

いつもは苦戦を強いられる獣を難なく倒し、
血に塗れた部屋の中で、ルファクはミアに声をかけた。

「……どうして俺の行動がわかるんだ?」

突然の問いかけに、ミアはニコッと微笑んだ。

「わたし、ルファ君ともっと仲良くなりたいから♪」

ミアのそれは、まるで答えになっていなかった。
だが、その答えに思わずルファクは笑ってしまっていた。

「プッ……ふふふっ……変な女だ……」

この瞬間、ルファクはこの施設に来て初めて、他人に『興味』を持った。



その日から、ルファクはミアと共に過ごす時間が増えた。
徐々にサビクやカカブとも話すようになっていき、
時間はかかったがスピカやアルナ、アイリ達とも関わるようになり……
ゆっくりと、それでも確実に「疑似兄弟」の一員になっていった。



ゾルダート第1研究所にはほとんど娯楽はなかったが、
医療班に所属するマリアは様々な本を貸し与えてくれた。

ミアはルファクの隣で本を読む事が多かった。
見た事のない景色、見た事のない世界。
本の中には自分の知らないものがたくさんあり、
その凄さを隣で静かにしているルファクにいつも語っていた。

ある日、ミアが読んでいたのはありふれた恋愛物語だった。

「ねぇ、ルファ君。
 結婚ってどう思う?」

ミアの突然の発言にルファクは困惑していた。

「……急に何を言い出すんだ?」

「結婚って凄い憧れる事みたいなんだけど、わたしには良くわかんないんだ~。
 だから、ルファ君はどう思う?」

言いたい事は色々とあったが、
ルファクは話をややこしくしないために飲み込んだ。

「……俺にも良くわからない」

ルファクの返事を聞き、ミアは少し残念そうな顔をした。

「そっか~……」

だが、ミアはすぐにいつもの笑顔を取り戻した。

「そうだ!
 じゃあ、大人になったらわたしと結婚しようよ!
 そしたら結婚がわかるかも♪」

ミアは名案と言わんばかりの笑顔を見せた。
一方でルファクは顔を赤らめながら戸惑っていた。

「……結婚っていうのは、好き合う者同士が……」
「わたし、ルファ君大好きだよ♪」

ミアの言う「大好き」の気持ちが、
確かな恋愛感情だったのかは『今のルファク』にもわからない。

だが、この日をきっかけにルファクは
ミアをそれまで以上に目で追ってしまうようになっていた。

そして、いつの間にかルファクはミアに、確かな恋愛感情を抱いていた。



そして……長い時が流れ、成長したルファクとミアは自然と恋人同士になっていた。

「ルファ君♪」
「なんだ?」

ルファクは穏やかな笑顔で問いかけた。

『……ルファ君じゃない、ルファクだ』

そう言っていた少年と同一人物とは思えない。

ルファクの氷の心をミアが少しずつ溶かしていった結果だろう。

「これ、ルファ君にあげる♪」

ミアが差し出したのは1つの指輪だった。

これはミアがゾルダート第1研究所に来た時から持っていた指輪だった。
施設の『大人』に取り上げられる前に、
マリアが機転を利かせたおかげで、今もミアの手元にある。
それが何故ミアのものになったのかを知る術はないが、
唯一の『施設に来る前のミア』を感じさるものだった。

「貰えない……これは、ミアの大切なものだろう……?」

「大切なものだから、ルファ君にあげるんだよ。
 いつかした『約束』、覚えてるよね?」

ミアは笑顔で問いかけた。

「……忘れるハズが、ないだろう……」

ルファクは顔を赤らめながらそう呟いた。

「いつか……自然に囲まれた場所に行ってみたいな」
「……行こう。いつか、2人で……」

そんな日が、いつかきっと訪れると願っていた。
強く、信じていた。

だが、現実は………………



それから、いくつもの時が流れ……

仮面で顔を隠したルファクは1人、
首飾りにした『指輪』を握りしめていた。

仮面に隠された顔には、
かつてミアの前で見せていたあの穏やかな笑顔はなかった。

「……ミア……俺は必ず、全てを終わらせる……
 全てが終わったら……その時は……」

その言葉には強い決意が秘められていた。

そして、ルファクは静かに、夜の闇へと消えていった。



(後書き)
ルファ君、ハッピーバースデー!

誕生日という事で、時間ないなりに何か話を書こうと思ったんです。
Side:Shadow版のルファクとミアの過去話は設定こそあったのですが、
そこまで掘り下げて語る事はないだろうな~と思ったので、
この機会に話にしちゃいました。

誕生日になんて話を書くんだ、俺は。

実装版S.S.S.ではミアはルファクと双子設定になりましたが、
元々最初にイメージしてたのはこっちです。
好みは色々あるでしょうけど、可能性としてはあり得たルファクの姿だと思っていただけたら。
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星七号
職業:
ゲーム作ったり話書いたりする人