Strong Stars Story
Side:Shadow
EX1「冒険者の休息」
酒場「デイブレイク」にて。
「アナタがテンジちゃんなのね~、
マスターから話は聞いてるわ~♪」
俺の前に立つ赤毛の男は、体をクネクネとさせながらそう言った。
「アタシはイル。
よかったら、イルちゃんって呼んでね♪」
そう言ってこちらに微笑むイルからは、
今までの人生では遭遇した事のない、強い違和感を感じていた。
この男……
……男……?
本当に男と呼ぶべきなのか、俺にはわからない。
容姿や、声から察するに男なのだろうが、仕草や振る舞いは女のそれに近い。
「……お前は、男なのか……?」
そう聞こうとすると、イルは人差し指を俺の唇の前に運び、発言を制止した。
「心は乙女……よっ♪」
そう言って微笑むイルは、
隙だらけなように見えて、掴みどころがない、そんな存在に思えて仕方がなかった。
この男は斬っても「いたぁい♪」と言いながら、
無傷で笑っている……そんな気がしてならない。
目の前の未知なる脅威に、俺は知らず知らずのうちに冷や汗をかいていた。
「実はねアタシ、ディアナちゃんやタミードちゃんとは古い付き合いなのよ。
だから、ナガサーを懲らしめてくれた事は感謝してるわ♪
ありがとう♪」
礼を言いながら、イルは俺に擦り寄り、俺を見つめてきた。
俺が予想外の事態に慌てていると、ランドルフが困ったような笑顔で助け船を出してくれた。
「そうだ、テンジ。
港街まで届け物をしてもらえないかい?」
「行こう、すぐに行こう。
そういうワケだ、悪いな、イル」
「もう、ツレないのね……楽しくなりそうだったのに」
そんなこんなで、俺はイルという名の脅威から逃げるようにデイブレイクを出た。
※
届け物を、ランドルフの知り合いがやっているという店へ届け、
無意識に空を眺めていると、覚えのある声が聞こえてきた。
「あれっ、テンジだよね?」
振り返ると、そこには先日街で暴れていた獣人モンスターを連れたスピカが立っていた。
「スピカ……
どうしたんだ、それは」
「この子?
えっとね……」
スピカによると、以前街で暴れたこのモンスターは
遠く離れた島国「ヤマト」から密かに連れ込まれたものだったらしい。
街で暴れていたのも、船で運ばれたストレスと、慣れぬ環境への不満から来るもので、
落ち着きを取り戻した今は、子犬のようにスピカによくなついていた。
モンスターであるとはいえ、
罪もない者を殺処分するのも人の道に反するため、
スピカは騎士団からの許可を得て、ヤマトへ連れていこうとしていたのだという。
「アナタはヤマトって、行った事あるの?」
スピカがそう問いかけてきた。
「行った事があるというか……
ヤマトは俺が生まれ育った国だ」
驚きの表情が、あっという間に笑顔に変わっていき、
スピカは「それなら、一緒に行きたいな……なんて!」と提案した。
眩しい笑顔でそう言われては、断るワケにもいかないだろう。
「わかった……俺でよければ、付き合おう」
※
スピカが出かける準備をしたいと言うため、俺はモンスター
「ブラン(名前がないと不便なため、スピカが名付けたらしい)」
と共にスピカを待っていた。
本当にブランは大人しく、俺にも一切の敵意を見せなかった。
待ちくたびれて空を見上げていると、スピカが「お待たせ!」と言いながら駆け寄ってきた。
「ごめんね、待たせちゃって……」
俺が最初に気になったのは、スピカの髪型が明らかに先程までとは異なっている事だった。
いつものスピカは「ポニーテール」というらしい髪を後ろで結んだ髪型だが、
今のスピカは髪を両側でそれぞれ結びつつも、後ろ髪は下ろしていた。
「……髪型が違うな」
俺に指摘されたスピカは、顔を赤くして慌てていた。
「へっ、変かな……っ!?」
「いや……髪型が違おうと、スピカはスピカだ。
問題ない」
俺の返答に、スピカは少し不満そうな表情でこちらを見ていた。
「……もう少し、何かあっても良いんじゃないかな? ……なんて……」
小さな声でそう呟くスピカに、俺が「悪くないと思うぞ」と付け加えると、
再びスピカは顔を赤くして、慌てていた。
「えっと……えへへっ……ありがとう」
そしてスピカは、まんざらでもなさそうな笑みを浮かべた。
※
「……着いたぞ」
ヤマトに到着すると、先程まで大人しくしていたブランも
故郷に帰ってきた事に気付いたのか、喜んでいるように見えた。
遠くに同種のモンスターの姿が見える。
何も言わずにスピカの方を見るブランに、スピカは優しく微笑んだ。
「元気でね。
みんなと仲良くするんだよ?」
スピカの言葉が通じたのか、通じないのかはわからないが、
ブランは仲間達に迎えられ、その場を去っていった。
「やっぱり、仲間っていいよね」
そう話すスピカに、俺は「そうだな」と笑顔で返した。
「さぁ、せっかくヤマトまで来たんだから、
この辺りを案内してほしいな?」
「……もちろん、そのつもりだ」
※
「テンジの実家はこの近くなの?」
「いや……もっと遠く、北の方だ。
大陸に住むお前達から見れば、小さな島国かもしれないがな」
「そうなんだ」
他愛のない話をしながら、見慣れた景色を歩き、スピカを案内していくと、
俺達の視界に満開の桜が飛び込んできた。
「……!!」
スピカは目を輝かせながら、言葉を失っていた。
「綺麗だろう、ヤマトの桜は」
春風に乗って、桜の花びらが宙を舞った。
スピカは慌ててスカートを押さえたが、すぐに桜色の花吹雪に気付き、
満面の笑みで舞い散る花びらに喜んでいた。
「……うんっ!!」
子供のように、スピカは無邪気に桜を楽しんでいた。
そんなスピカを見ていると、思わず俺も、笑顔になってしまっていた。
※
桜の舞う並木道を歩いていくと、小さな神社へと辿り着いた。
「ここは……お家?」
「いや……神が祀られている場所だ」
俺とスピカが神社へ向かっていると、
近くで掃除をしていた1人の巫女が、こちらに微笑んでいた。
「……あの人は?」
「巫女だ。
まぁ……神に仕える者……といったところか」
「そうなんだ。
あの人が美人なのもあるだろうけど、服装も可愛いね!」
スピカが笑顔で巫女を見ていると、巫女が「こんにちは」と声をかけてきた。
「おふたりは恋人同士ですか?」
巫女の問いに、スピカは大袈裟に戸惑っていた。
「ちっ、ち、ちっ、ちがいます……!?
えっと……その、友達みたいな……!?」
顔を真赤にしながら否定するスピカを見ながら、巫女は楽しそうに笑っていた。
「恋愛成就の御守りもありますよ、いかがですか?」
「だっ、だから……そういうのじゃなくてっ……!?」
それにしても、この巫女、どこかで出会った事があっただろうか。
どうにも思い出せないが……この空気、この声……
どこかで感じたような気もする……
そう思いながら、巫女の方を見ていると、
何故かスピカが不満そうに俺を見ていた。
「……どうした、スピカ?」
「べーつにー」
そう言いながらも、スピカはしばらく不機嫌な顔を崩さなかった。
※
慣れない土地を歩き回るのも疲れるだろう。
スピカを気遣い、俺達は小さな茶屋に立ち寄っていた。
「ここのオススメはイチゴ大福だそうだ」
俺がそう話すと、スピカは嬉しそうに笑っていた。
「そうなの?
私、イチゴ好きなんだ!
それにしよっと♪」
今日のスピカは、いつもより表情が幼く見えた。
……いや、年頃の少女という事を考えれば、これが自然なのかもしれない。
普段のスピカは人々の希望となるために、「冒険者」として振る舞っている。
周囲からも「年齢相応の少女」として扱われる事はあまりないのだろう。
そのスピカがこうして、無邪気な笑顔を見せているという事は
それだけ、スピカも息抜き出来ているという事か……
そう考えると、俺もいつの間にか笑顔になっていた。
「ふふっ、今日はテンジも良く笑うね?」
「あぁ……そうだな」
笑顔は笑顔を呼ぶ。
昔、誰かがそんな言葉を言っていた事を思い出しながら、俺は再び笑っていた。
「アナタの実家の辺りには、どういうものがあるの?」
「そうだな……温泉があるぞ」
温泉という言葉にスピカは目を輝かせていた。
「温泉!?
良いなぁ……私、入った事なんだよね。
やっぱり、気持ち良いの?」
目を輝かせたまま、スピカは質問した。
「あぁ、もちろん。
……だが、温泉までの道中にヒドラと似た生物の群生地がある。
それでもよければ連れていくが……」
快晴だったスピカの笑顔は、ヒドラの名を聞いて、一気に曇っていった。
※
港街へ戻ってきた頃には、既に空は茜色に染まっていた。
「今日はありがとう!
とっても楽しかったよ!」
スピカは眩しい笑顔で、そう言った。
「またヤマトに行きたくなったら、言うといい。
今度は違う場所を案内しよう」
「うん!
楽しみにしてるね!」
何も言わずに、俺はスピカの笑顔を見ていた。
スピカもまた、俺の顔を見つめていた。
そんな時だった。
「スピカさーん!」
と頼りない声をあげながら、ハイデルが駆け寄ってきた。
「完全無欠の冒険者」の休息の時は、もう終わりらしい。
それでもスピカは凛々しい表情で「どうしたんですか?」と問いかけていた。
仕方がない……俺も、少し付き合っていくか。
「テンジ、行くよっ!」
スピカはいつものように、布で包んだ武器を片手に駆け出していった。
(星七号の独り言)
スピカさん、お誕生日おめでとー!
すっぴーバースデー!
今年のスピカ誕、第1弾としてSide:ShadowのEX1話でした。
すっぴー、完全にデレモードに入っております。
書いててなんかヤキモチ妬きそうになりましたw
はしゃぐスピカ、照れるスピカ、焦るスピカ、嫉妬スピカと
色んなスピカが書けて楽しかったです。
巫女スピカやら、ドキッ!スピカさんの温泉旅やらを妄想出来る内容にしております。
(50回ぐらい女湯の様子を見たいって? 何を言うかこやつめ!)
少しでもニヤニヤ、もしくは「テンジ爆発しろ」という気分になれましたら何よりですw
ちなみに、「ヤマト」とROの「アマツ」は似ていますが、色々と違っています。
(神社の周辺にヒドラがいないとかね!)
というのも、アマツという地名にするとROに馴染みのある方々には
あのイメージで固定化されてしまいそうだなと。
アマツから来た獣人型モンスターって何よ?みたいな部分もあったり、
アマツよりもっと広いイメージで書きたかったのもあり、あえて別の名前にしてあります。
そこら辺も含めて、パラレルな世界をお楽しみいただきたく思います。
今回の桜のシーンだけは実は先に書いてあったもので、
リアルに桜が咲いていた頃、通勤中に桜並木を見ながら
「ここにスピカがいたなら」と考えていたものですw
なにはともあれ、すっぴーバースデー!
いつまでも君に幸あれ。
1. すっぴーバースデー!!
………ハッ! 幸せ過ぎて顔面崩れるかと思いました!
スピカは赤面させたくなるキャラですねぇ。 可愛い…!
スピカがデレモードならこちらはデレデレモードです、
むしろデロデロモードです(溶けかけ)
> 50回ぐらい女湯の様子を見たい
> 少しでもニヤニヤ、もしくは「テンジ爆発しろ」
面白いくらいこちらの思考を読まれてて笑いましたwww
いや、私としては100回以上様子見するのもやぶさかではありまs(殴
私も何かお祝いしてあげたかったけど、今日は遅くまで帰れんのよ…
ごめんねスピカちゃん…(´Д⊂ヽ また今度アマツ行こうね…!
Re:すっぴーバースデー!!
>スピカは赤面させたくなるキャラ
ですねー。
(本質的には)感情がハッキリしていて、まっすぐだからでしょうか。
>デロデロモードです(溶けかけ)
そういうモンスターと認識されないよう、願っていますw
>私としては100回以上様子見するのもやぶさかではありまs(殴
スピカさんにバレたら大惨事になる気もしますが、女同士なら大丈夫なのか…?
いや、ファイさんの場合、大惨事になるのもご褒美なのか……!?
>私も何かお祝いしてあげたかったけど
そういう気持ちだけでもありがたいですよ!
>また今度アマツ行こうね…!
スピカ「本当? 楽しみにしてるね!」