砂漠の街の酒場に、レオンが手を引いて1人の男が連れられてくる。
その男の名はサビク…今日の宴の主役である。
今日はサビクの誕生日だった。
本当の誕生日がいつなのかは本人にもわからないが、
そういう事に決めた日なのだから、なんの問題もない。
「それじゃあ行きますよ!
誕生日選手権、開催ですっ!」
満面の笑みで、レオンは良くわからない言葉を言い出した。
「…誕生日選手権…? 」
当然サビクも言葉の意味がわからずに聞き返してしまった。
「実は今日、サビクさんのお誕生日のお祝いをみんなで持ち寄ったんです!
その中で誰のプレゼントが一番か、サビクさんに決めてもらおうかと思って!」
ハイテンションに語るレオンは止めても止まる気配がない。
サビク自身も別に悪い気はせず、そのまま選手権は開催された。
「まずは僕から!
じゃじゃ~ん!」
レオンはそう言いながら「サビク伝説」と書かれた1冊の手帳を手渡した。
その本にはこれまでのサビクの活躍や武勇伝が
これでもかという程にまとめられていた。
…中にはサビクには覚えのない描写もあるが、
レオンは「凄いでしょ、サビクさん!」と言いたげな顔をしていた。
(…こういうのは本人に渡すモンじゃなくないか…?)
サビクはそう思いながらも、
「ありがとな」とレオンから手帳を受け取った。
「…次は俺が行こう」
ルファクは荷物の中から1本の短剣を取り出し、手渡した。
「…こいつは中々のモンだな。
良いのか?」
手に触れただげで、扱わなくても
その短剣がどれ程のものなのか、サビクには理解出来た。
「…あぁ」
わかりにくいが小さく微笑むルファクに、サビクは
「ありがとな」と礼を伝えた。
「次はあたしたち!」
アイリとアルナは小さな紙を手渡した。
その紙には
『ジェメリーパーク生涯パスポート』と書かれていた。
「あぁっ、いいなぁ~!」
レオンが羨ましがる中、サビクはその紙を受け取った。
「色々考えたんだけど、何をあげたら良いのか悩んじゃって…」
アルナは手帳に書かれた候補と思われる文字の羅列をサビクに見せた。
『世界の名酒セット』
『甲冑飾り』
『手作りのアクセサリー』
などジャンルを問わず様々なものが書かれており、
それだけ2人が熟考を重ねてくれたのかがサビクにもよく伝わった。
「ありがとな。
今度使わせてもらうよ」
優しく微笑むサビクに、
「その時はあたしたちも誘ってよね♪」
「あ、僕も!」
とアイリやレオンが声をかけていた。
「それじゃあ今度は私の番、かな?」
スピカは店の厨房へ向かうとカレーライスを運んできた。
「私、頑張って作ったんだけど…
あ、ちゃんと味見はしたし、ランドルフさんのレシピを見て作ったから…!」
スピカは恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべていた。
「みんなの分もあるからね!」
「このカレー、甘口?」
アイリは問いかけた。
「もちろん♪」
「やった!」
サビクは甘いのが特別好きではなかったが、
気心知れた弟妹達と同じ食事を味わうのは悪くないと感じていた。
「兄さん、おつまみが好きだから、
そういうのにしようかとも思ったんだけど、カレーの方が失敗しにくいかなって…」
恥ずかしそうにスピカは話した。
「まぁ酒のツマミなら俺のが作り慣れてるだろうしな。
みんなで食事も良いモンだ。
サンキュー、スピカ」
サビクの言葉にスピカは嬉しそうに笑っていた。
食事が一段落したところに、アルゴルが厨房からケーキを運んできた。
豪華なケーキにはイチゴや桃、チョコレートなどが乗っており、
中心にはサビクを象ったお菓子が乗っていた。
「もちろんボクが作りました」
「職人芸かよ」
笑顔で話すアルゴルに驚きつつもサビクはツッコミを入れた。
スピカが好きなイチゴ、
アルナが好きなひとくちケーキはイチゴの乗ったケーキ、
アイリが好きなピーチケーキ、
レオンが好きなチョコレート…
サビクは弟や妹の幸せを考え行動していた事をアルゴルは知っていた。
だからこそ、弟妹が好きなモノとサビクという組み合わせなのだ。
(肉や蒸しガニは乗らなかったが)
「はい、兄さんの分」
アルゴルは切り分け、サビクの分にはサビクを象ったお菓子を乗せる。
「…なんか照れるな、こういうの」
そう言いながらもサビクは満足げにケーキを味わっていた。
「それでサビクさん、誰が一番なんですか?」
ニコニコと笑顔でレオンは問いかけた。
「みんなそれぞれ考えて用意してくれたんだ。
それが嬉しいぜ」
当たり障りのない言葉でサビクは答えを保留した。
「ボクが一番だよね?」
アルゴルは笑いながら自信たっぷりな様子で話す。
「私も結構頑張ったと思う!
失敗しなかったし!」
負けじとスピカも名乗りをあげた。
「豪華さならあたしたちじゃない?」
ニヤリと笑うアイリと恥ずかしそうに、でも一番が気になっているアルナ。
「いいや、俺が負けるハズはない」
何故かルファクは自信満々だ。
「答え出さなきゃダメなのかよ、これ…」
サビクは困った顔で頭をかいていた。
数秒サビクは考え、そして決意した顔で口を開いた。
「そうだな…一番は………」
サビクが誰の名前をあげたのか。
そんな事は誰も気にしていなかった。
大切な人の誕生日を祝える事が最大の幸せである。
それからもしばらく酒場では笑顔溢れる時間が続くのであった。
(後書き)
一番が誰なのかは語りません。
決着を語らないのはやっちゃダメなヤツ!という人もいますが、
丸投げや考えてないとかではなく、あえて語らず、
様々か可能性を残したいのでこういう書き方をする事はあります。
お話って見る人によって解釈が違って良いと思うんです。
日頃ゲーム(プレイヤーによって進め方や選択肢が違って当たり前のジャンル)に
携わる人間だからなおさらそう思うのかもしれませんが。
(答えを用意した上で語らないパターンもありますけどね!)
ハイ、盛大に遅刻しましたがサビクさん誕生日話でした。
実装版とSide:Shadow、どっちにも転べるように書いたので
レオンの姉に出番がないという…その場にはいると思います。
地の文で「レオンの姉」って書いたら大分アレじゃないですか。
でもレテーナ(レナ)と書くのもアレですし…
サザエさん時空で良いのかもですが、
サビクの誕生日はサビクが1年前にもう一度歩きだした日なので、
最低でもS.S.S.の2年後になるんですよね。
こういう事考え出すと書けるネタが限られていくんですがw