俺は愛想も悪いし、要領も悪い。
不器用で、排他的で、誰かに愛されるような人間でもない。
それはわかっている。
……それでいい。
それが俺なのだから。
ルファクは1人、「デイブレイク」で食事をしていた。
いつも通り、野菜っ気のないメニューを食べ終えたルファクは、「美味かった」とつぶやき、会計を済ませていた。
「いつ見てもルファクちゃんってクールで素敵よね~。
恋人とか、いないのかしら?」
イルはいつものようにうっとりとした表情でルファクの後ろ姿を見つめていた。
ルファクがデイブレイクから一歩踏み出そうとした時、ルファクの前に1人の少女が立っていた。
年齢はスピカと同世代か、スピカより多少年下ぐらいだろうか?
少女はうつむき、モジモジとしながら、チラチラとルファクの方を見ていた。
(……変な女だ)
ルファクはそう思いながら少女を避け、その場から去ろうとした。
その瞬間、少女は「あの……っ!」と顔を赤くしながら、ルファクに声をかけた。
ルファクは立ち止まり、少女の方を向いたが、少女は何も言わないまま、ルファクに一通の手紙を差し出し、その場を去ってしまった。
「……なんだ、これは……?
手紙……?」
不審に思いながらも、ルファクはその手紙を片手に、デイブレイク店内へと戻っていった。
「ルファク、どうしたの?」
優しい笑顔でアルゴルはルファクに声をかけた。
「……すぐそこで、知らん女にこれを渡された」
ルファクがそう答えると、店内は静まり返った。
「それって、ラブレターじゃないのかい?」
そう切り出したランドルフは何故か嬉しそうだ。
「ラブレターですってェッ!?」
物凄い形相でイルはルファクに迫り、ルファクは慌ててイルに銃口を突きつけた。
「ふざけるな……ッ!
俺をからかっているのか……ッ!?」
顔を赤くしながら怒鳴るルファクを前に、アルゴルは落ち着かせようと水を差し出した。
「でも、どういう内容なんだろうね?
ルファク、読んでみたら?」
アルゴルに言われ、ルファクは恐る恐る、手紙を読み始めた。
手紙の内容は
近々子供たちに演劇を見せる予定だが、重要な役を演じる予定だった人物が怪我で入院してしまった。
そんな時にルファクの存在を知り、ルファクに依頼したいと思った。
どうか、力を貸してほしい……
というものだった。
そして、ルファクに演じて欲しい役というのが、
「病に苦しみながらも祖国を救うために戦う王子」の役なのだという。
「……なるほど、確かにルファクは芝居がかった部分が目立つし、適任かもしれないね」
ランドルフは腕を組みながら、そう言って微笑んだ。
イルも「ルファク王子素敵よ~♪」とルファクに声援を送った。
しかし、ルファクの反応はあまり良いものではなかった。
「……ふざけるな、何故俺が知らん女のために、芝居に付き合わなければならない?
第一、王子の役など俺には向くハズがない。
やるならアルゴルの方が適任だろう」
仮面で表情は隠れていても、ルファクが不機嫌である事は店内の者たちに強く伝わった。
……ただ1人、イルだけは
「確かにアルゴル王子も良いわね~♪」
と嬉しそうに妄想していたが、周囲はそんなイルの相手をするよりも、眼前で今にも怒りを爆発しかねないルファクの事を心配していた。
「ルファクに頼んだんだから……きっとルファクに頼みたい理由があるんじゃないかな。
一度、会って話を聞いてみたら?」
言葉を選びながら、優しげな笑顔でアルゴルはルファクにそう伝えた。
アルゴルの笑顔を前に、ルファクは舌打ちをしながら、手紙に書かれた少女の家を訪ねていった。
「……」
怯えるような瞳で自分を見つめる少女を前に、ルファクは小さく息を整え、話しかけた。
「……何故、俺なんだ?」
ルファクの言葉は、直球そのものだった。
だが、その言葉に、怒りの感情は込められていない。
なんとなくではあるが、少女にはそれが伝わってきた。
「……えっと……はじめてあなたを見た時に、あなたしかいない……そう思えたんです」
少女は再び顔を赤らめながら、静かにそう語った。
恥ずかしそうにはしていたが、決して彼女は、自分をからかうつもりはない……それを、ルファクは自然と理解した。
「……不器用だけど……まっすぐで……目指しているもののために、一生懸命になれる……
そんな王子様と、あなたが、重なって見えたんです……」
恥ずかしそうに、そしてどこか嬉しそうに、少女は自らの言葉で話し続けた。
「……言っておくが、俺に芝居の心得はないぞ」
「大丈夫です……あなたなら、きっと……」
話を聞き終えたルファクは、静かに背を向け、
「1日で良い、考える時間をくれ」
とだけ言い残して、その場を去っていった。
「確かにお前、芝居がかってるもんな」
「少しでも挑戦してみたい気持ちがあるのなら、やってみたら良いんじゃないかな?」
「わたしも、お兄ちゃんなら演じ切れると思うよ」
「みんなで応援に行くから、ファイト!」
ルファクは仲間たちのもとを訪れ、それぞれに意見を求めた。
誰1人として否定する者はおらず、全員がルファクの背中を押していた。
緑に囲まれた静かな森の中で、ルファクは1人、空を見上げていた。
ミア……お前なら俺にどんな言葉をかけただろうか。
俺を笑ったか?
俺が芝居……それも王子の役など笑えるだろう。
……いや。
「やりなよ」……お前なら、笑顔でそう言うだろう。
お前はいつだってまっすぐだからな。
ルファクは、空を見上げながら、静かに微笑んだ。
「……俺が上手く演じられるよう、見守っていてくれ」
そう言って、ルファクはイズルードへの道を歩み始めた。
数日後。
慣れぬ環境で、芝居の練習をしているルファクの姿があった。
「この命……燃え尽きたとしても……
それでも、最後の瞬間まで私は戦い続けよう」
ルファクは既に台詞を暗記し、しっかりと「王子」を演じていた。
だが、ルファクは自分自身の演技に納得がいかず、何度も何度も、繰り返し、練習を続けていた。
「大丈夫。
きっと上手くやれるよ」
そんな優しい声が、ルファクの心の中に響いていた。
だからこそ、ルファクは退くワケにはいかなかった。
俺は愛想も悪いし、要領も悪い。
だが、それでも俺を必要とする者がいる。
……ならば俺は、不器用であろうとも、期待に応えられるよう、全力で挑もう。
こうしてルファクは、不器用なりに、新たな一歩を踏み出した。
(後書き)
ハッピーバースデー、ルファ君!
「主人公(PC)を登場させずに真面目なルファクの話を書く」
というテーマで今回は書いてみました。
ルファ君って、油断するとギャグっぽくなりがちなので、たまには趣向を変えようかな、と。
個人的にはルファクって、教師……ではないにせよ、いわゆる誰かの「先生」になりそうなイメージがずっとあるんですよね。
不器用なりに誰かを導いていくというか、そういう感じの。
でも、どうすれば今の「不器用の塊」がそこに辿り着くのかなってしばらく考えてみたんです。
考えてみたら、とりあえずこんな話が書きたくなりましたw
なかなかゴールまでの道は遠いかもしれませんが、どんな困難にも不器用なりに挑んで行くんだろうな、とそう思って見守ってくださると幸いです。
今回のSSはここ1年でプライベートで書いた話の中では一番苦戦してます。
どうしてもルファクがネタキャラになってしまうから…
ではなく、油断するとシリアスに振り切った話になりそうだったからです。
シリアスはシリアスで良いんですけど、誕生日ぐらいは前向きな話にしたい、という事で、プロットを作っては削除し、作っては削除し、こうなりました。
没ったプロットは何か別の機会に使えたら使います。
他にどんなのがあったかって?
囚われのルファクを助ける話とか(ルファクが格好良くないので没)、
ミアさんと仲良く暮らしている幸せな夢を見るルファクとか(夢ネタやりすぎなので没)…
ちなみに2つともギャグじゃなく直球シリアスです、なかなか鬱っぽい話です。
とりあえず、形になって良かった。
おめでとう、これからもよろしく、ルファ君。
